武田淳(たけだ・あつし) 伊藤忠総研チーフエコノミスト
1966年生まれ。大阪大学工学部応用物理学科卒業。第一勧業銀行に入行。第一勧銀総合研究所、日本経済研究センター、みずほ総合研究所の研究員、みずほ銀行総合コンサルティング部参事役などを歴任。2009年に伊藤忠商事に移り、伊藤忠経済研究所、伊藤忠総研でチーフエコノミストをつとめる。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
RCEP署名、TPP参加に積極姿勢、輸出管理法施行……対外活動を活発化する中国
次期大統領の確定待ちという米国の政治的空白を狙って、中国が対外活動を活発化させている。
11月15日に日本を含む15ヵ国でRCEP(地域的な包括的経済連携)に署名、同月20日には習近平国家主席がTPP(環太平洋経済連携協定)参加に前向きな姿勢を示すなど、保護主義的な行動が目立った米トランプ大統領へ当てつけるかのように、自由貿易の推進役をアピールしている。
さらに、12月1日には「輸出管理法」を施行した。これが、米国が中国を念頭に置いて強化する輸出規制への対抗措置であることは、誰の目から見ても明らかであろう。
まず、RCEPであるが、当初は、日本が参加する意義として、関税の引き下げによる輸出の促進だけでなく、中国を一定のルールに基づく枠組みに参加させることで、技術移転の強要や知的財産権侵害、国有企業優遇による差別的な競争環境といった中国進出における懸念材料を多少なりとも改善できるのではないか、という期待があったと思う。
その実現をより確実にするため、豪州やインドとの連携によって中国に圧力をかけるという目論見だったとみられるが、今回の署名ではインドが離脱。力不足となった感は否めない。
ただ、それでも、署名された協定書には投資に関して「特定措置の履行要求の禁止」が明記され、技術移転要求やロイヤリティ規制に睨みを利かせたほか、知的財産についても、その権利の取得や行使について規定し、悪意の商標登録を制限するなど、ある程度の成果が期待できそうな条項が盛り込まれたのも事実である。
日本にとって、RCEPは中国および韓国と締結する初めての経済連携協定である。両国との間の関税引き下げにより、直接的なメリットが得られるだけでなく、既に中国とFTAを結んでいる韓国との中国市場を巡る競争においても、環境が改善される。特に自動車関連分野において、その恩恵への期待は大きい。
ただ、関税撤廃が10年以上先になるものも少なくない。なによりも、インドという中国に対する最大の牽制(けんせい)役を欠いたことで、RCEPにおいて中国が圧倒的な存在になったことは、明らかな目算違いであろう。
中国にとっては、自らが中心となってまとめた初めての大型自由貿易協定となる。保護主義の代名詞となったトランプ政権のうちに、RCEPという成果を掲げて世界の自由貿易の旗手として名乗りを上げるとともに、米国抜きの経済圏を確立するための第一歩として、非常に大きな成果を挙げたことになる。