こじれる漁業問題
イギリス漁業水域へのEU漁船のアクセスとは、イギリスがEUから離脱する前は、イギリス漁業水域もEUの漁業水域の一部なので、EUの共通漁業政策の下で、フランス、オランダ、デンマークなどのEU加盟国の漁業者にはイギリス漁業水域での漁獲割り当てが認められていたので、これを離脱後も認めろというものである。
イギリスの漁業水域は漁業資源が豊富で、ここでこれらの漁業者はEU全体の漁獲量の4割を採っている。国全体では漁業は極めて小さな産業だが、地域経済では政治的に重要な産業である。
イギリス漁業水域では、ブレグジット後はイギリスが主権的権利を持つので、イギリス政府が資源量等を勘案しながら毎年各国に割り当てることになる。2020年中にイギリスと合意できなければ、2021年からEU加盟国の漁獲割り当てはゼロになる可能性がある。ここで圧倒的に強い立場にあるのはイギリスで、EUはイギリスにお願いする弱い立場である。
EUはイギリス漁業水域で漁獲させないなら、自由貿易協定を拒否してイギリス産の魚に関税をかけると圧力をかけているが、WTO協定上せいぜい20%程度までの関税しか課すことはできない。少しばかり輸入が減るぐらいで、輸入を禁止するまでにはいかない。逆に、関税が高くなると、値段の上がったイギリス産魚を買うのは、EUの消費者である。
レベルプレイングフィールドでEUが立場を譲らないのであれば、イギリスは一切漁獲を認めないと主張できる。イギリスからすれば、EUがイギリス漁業水域内の権利を主張するのは、これまた主権の侵害だということになろう。
大変ではない今回のノーディール
イギリスは譲歩できないものを要求されている。公平に見れば、譲歩するのはEUの方だ。私から見ると、どうしてEUがこのような主張を行うのか理解できない。
しかし、フォンデアライエン欧州委員長はフランスのマクロン大統領やドイツのメルケル首相などの圧力によって譲歩できない。欧州委員長はEUの大統領のように思われているが、実際にも制度的にも、主人である加盟国の意向を無視して行動することはできない。結局双方が譲歩できない以上、イギリスとEUのトップ会談は不調に終わりそうである。

Ilyas Tayfun Salci/Shutterstock.com
そうなると、ノーディール“no deal”となって大変だと言われているが、これは同じノーディールでも昨年末までの交渉で言われた「合意なき離脱」“No Deal Brexit”とは異なる。
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