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コロナ禍と米中対立で高まる「経済安全保障リスク」

ワクチンや治療薬の開発力が米中欧に引き離された日本の取るべき道

荒井寿光 知財評論家、元特許庁長官

第3 勃興する中国のリスク

 中国でコロナが発生したが、大量の軍隊を動員するなどして、1月から4月にかけて武漢市を含む湖北省を完全に封鎖し、コロナの制圧に成功した。感染者数は約9万人で、米国の約1600万人に比べて極めて少なく、日本の約18万人よりも少ない。

 コロナが収束するや、中国政府は企業に操業の再開を呼びかけ経済の回復に成功し、中国経済回復の恩恵を受けている外国企業も多い。2020年のGDPは+1.9%と世界で唯一プラス成長を実現すると見込まれ、中国は世界経済の牽引車として影響力を高めている。

 コロナ対策として健康アプリを始めスマホ、監視カメラ、ドローン、顔認証、通信システムなどデジタル技術を総動員して世界で最も大きな成果を上げた。これにより中国のデジタル革命は飛躍的に進んだ。

 ワクチンの開発にも成功しつつある。

 科学技術分野でも日本やヨーロッパを抜き、米国と並んで世界のリーダーとなっている。文部科学省科学技術・学術政策研究所調べでは、自然科学の論文数(2016~18年平均)は、中国が30.6万本で1位となり、2位米国の28.1万本を上回った。(日本は4位で、6.5万件)。また2019年の国際特許出願件数(PCT)は1位中国5.9万件、2位米国5.8万件、3位日本5.3万件となり、国際知財戦略を急速に進めている。

拡大中国建国70周年の祝賀式典の冒頭、あいさつする習近平国家主席の姿が映し出された=2019年10月1日、北京

 このように中国は世界のリーダーになりつつあるが、中国には次のリスクがある。

① 秘密主義
 外国には中国の政策の内容や運用が分からないことが多い。
② 一帯一路の進展
 中国主導のブロック経済が出来上がる恐れ。
③ 強圧的な外交
 歴史的に全ての大国は強圧的であるが、中国も外国に強圧的になっていて、戦狼(せんろう)外交と言われる好戦的な外交を始めている。例えば、4月豪州のモリソン首相が中国に対し、コロナに関する国際調査を求める発言をしたところ、中国は豪州産の食肉、大麦、石炭、綿花、ワインなどを対象に輸入停止、関税引上げ等の報復措置を講じている。中国は10月に輸出管理法を制定したので、外国の政府や企業に中国と米国の選択を迫る可能性がある。

第4 医療が戦略物資化するリスク

 コロナの発生により、世界中でマスクなどの医療物資が不足し、国際的に取り合いが行われた。

 多くの国で医療物資、医薬品、医療機器などを外国に依存していることが明らかになり、国内生産の重要性が認識された。そのため、ワクチンや治療薬の国家間の開発競争が加速している。

 各国政府にとって国民の生命や健康を守ることが最大の任務であり、医療物資、医薬品、医療機器などの確保に力を入れている。このため、医療は戦略物資となっており、次のリスクが生じている。

① ワクチン、治療薬など新薬の開発が特定国に集中するリスク
② マスクなど医療物資の生産が特定国に集中するリスク
③ マスク外交、ワクチン外交など医療外交が行われるリスク

第5 デジタル革命により国家間の格差が拡大するリスク

 コロナ禍により、在宅勤務やテレワークが進められ、ZOOM会議などの米国の会議システムが世界中で普及した。これにより、デジタル分野の米国への依存がさらに高まった。

 一方、中国は健康アプリ、監視カメラ、顔認識、ドローン、通信システムなどを統合運用し、米国のGPS衛星に対抗する衛星測位システム「北斗」は世界をカバーする55基体制を完成した。これによりデジタル分野でも中国は米国と並び世界一のレベルになった。

 コロナ禍に対処するデジタル技術開発は世界中で進められたが、米中の発展は飛び抜けている。

 この結果、次のリスクが生じている。

① デジタル分野が米中に独占され世界が分割されるリスク
 8月米国ポンペイオ国務長官が発表したクリーンネットワーク構想は同盟国に中国企業の排除を呼び掛けている。
② 米国や中国から”デジタル制裁”を受けるリスク
 今や社会はコンピュータシステムの上に成り立っており、米国や中国から通信衛星や位置衛星の利用を止められれば、経済のみならず、社会、国家機能が止まる。米国や中国の意向に反すれば、”デジタル制裁”を受ける可能性が生じている。
③ サイバー攻撃が拡大するリスク
 急速なテレワークや会議システムの導入により、セキュリテイ対策が追いつかず、サイバー攻撃のリスクが高まっている。

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筆者

荒井寿光

荒井寿光(あらい・ひさみつ) 知財評論家、元特許庁長官

1944年生まれ、1966年通産省(現経済産業省)に入り、防衛庁装備局長、特許庁長官、通商産業審議官、初代内閣官房・知的財産戦略推進事務局長を歴任。日米貿易交渉、WTO交渉、知財戦略推進などの業務に従事。WIPO(世界知的所有権機関)政策委員、東京大学、東京理科大学の客員教授を歴任。現在は、日本商工会議所・知的財産戦略委員長を務める。(著書)「知財立国が危ない」「知財立国」(共著)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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