たくさんの期待や欲望を背負わされた五輪。中止の決断を急げ
2021年01月10日
東京五輪の開催に疑問符が付いている。コロナの巨大な第3波が収束を見せるのは早くても3~4月だろう。海外の感染も深刻だが、菅首相は「世界の団結の象徴」と、あくまで五輪を実施する構えだ。
固執の原点は、東京招致が決まった2013年9月のIOC総会の前後、政府のある振舞いに見ることができる。あの「おもてなし」が話題になったブエノスアイレスの総会である。
IOC総会の3か月後の2013年12月、首都直下地震の被害想定と対策をまとめた政府ワーキンググループ(WG)の最終報告書が、さりげなく公表された。
揺れや火災による建物被害は最大61万棟、死者は2万3千人。地震直後は都市部の5割が停電……。この深刻な数字とともに市民の避難対策、医療対策などが列記された。
WGは3.11大震災の翌年2012年4月に、1年間の予定で検討を開始し、7月には早くも中間報告をまとめた。最終報告の全体像は2013年春~夏ごろにはまとまっていた。その公表がなぜ12月までずれ込んだのか。
ある関係者は「五輪開催地の選考が9月に控えており、深刻な被害想定が事前に報道されると、東京は怖いというイメージになる。それで日程をIOC総会の後まで延ばした」と筆者に明かした。
首都直下地震は、3.11大地震に連鎖して起きる可能性があった。本来なら被害想定や避難・医療対策は1日も早く国民に周知すべきだった。この間、国民は首都直下地震の情報を知らされないまま、災害リスクに晒されたことになる。
東京招致が決まった後のWGで、ある委員がこう指摘した。「五輪を考えると、海外に首都直下地震の被害想定と対策を正しく伝えなければならない」
国民の安全より五輪招致という政治的得点を上げるほうを優先した安倍内閣。その姿勢はGO TOや五輪開催にこだわる菅首相にも通じる。
このように政権にとっての五輪は、国民の命を守ることより重要な、栄光に満ちたイベントである。「コロナウイルスに打ち勝った証し」「世界の団結の象徴」――菅首相は世界にそう誇らしく宣言する自身の姿を思い描いているのだろうか。
つまり五輪パラを「政権維持の道具」として上手く使うことが首相の期待であるから、五輪を止めるという判断は出てこない。
それはIOCも同じことだ。元々、IOCは五輪の実行を目的とした組織である。テレビ放映権料などの商業利権を享受しているから、止めるという発想がない。
しかし、首相の期待には二つの壁がある。
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