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英国のTPP参加の好機を逃すな~中国の「安易な加入」を防ぐために

加盟国がドミノのように拡大していくTPPの未来

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

英米自由貿易協定交渉の困難さ

 ブレグジットは主権回復という大義は一応達成したが、イギリスにとって貿易額の5割を占めるEUとの貿易には大きな障害が残るものとなった。それだけではなく、2割を占めるアメリカとの自由貿易協定交渉も難航することが予想される。

 トランプ政権下では、アメリカとの交渉はほとんど進まなかった。バイデン政権になっても、バイデン大統領が「労働者や教育などへの国内投資を拡大するまで、新たな貿易協定を結ばない」としており、日英自由貿易協定のように早期に妥結することは考えられない。また、イギリスにとってアメリカは重要な通商相手であるが、逆は必ずしも真ではない。

 さらに困難な問題がある。アメリカとEUは、長年塩素消毒したアメリカ産の鶏肉の輸入を認めるかどうかで対立してきた。英米の自由貿易協定交渉では、アメリカは必ずこの問題を解決するよう、イギリス政府に要求するだろう。しかし、イギリス国内でも、このような鶏肉に対しては、消費者の反発がある。EUとの関係でも問題がある。イギリスを通じてアメリカ産鶏肉が流入することをEUは懸念するだろう。EUがイギリスに対する検疫体制を強化すると、さらに物流の停滞を招きかねない。

 この経済的に小さな問題が、なぜ通商交渉の障害になるのか、疑問に思われる人も多いだろう。しかし、経済的に小さくても政治的には大きな問題となる。これまでの日本の通商交渉で常に問題となったのはGDPの1%程度の農業だった。ブレグジットの自由貿易協定交渉で最後まで残ったのは、イギリス水域での漁業問題だった。日英の自由貿易協定交渉でも、イギリス産ブルーチーズの扱いが最終決着に持ち越された。

 アメリカとの交渉はなかなか進まないだろう。その中で、イギリスにとって貿易額としてアメリカの半分にしか過ぎないものの、TPP参加によって成長する太平洋地域の諸国との貿易を促進することは、ブレグジットや新型コロナウイルスの蔓延で影響を受けるイギリス国民に明るい話題を提供できると、イギリス政府の担当者は考えているのだろう。

TPPを通じたアメリカ市場へのアクセス

 TPPはアメリカのオバマ政権が中国を取り込もうとした仕組みだった。

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

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