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米株式市場ではじけた「大衆の反乱」~コロナ禍で急拡大する貧富の格差

ウォール街のプロに対抗する個人投資家たち、武器はSNSでの団結

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

 米国の株式市場で「大衆の反乱」が起きた。特定の銘柄を空売りするウォール街の投資ファンド勢に対し、スマホのSNSで団結した個人投資家たちが大量の「買い」で対抗。ファンド勢に数千億円の損害を与えたのである。

「エスタブリッシュメントに対する抵抗」と米メディア

 発端は1月26日。ゲームストップ株(米ゲーム小売りチェーン)が、個人投資家たちの買いで突然93%上昇した。割高すぎると見たファンド勢は一気に空売りを仕掛けた。値下がりしたところで買戻せば、一儲けできる。

 すると、SNS上に「ファンドは市民の敵だ」「空売り勢を締め上げろ」「株を買い支えろ」など、個人投資家の書き込みが溢れた。ファンド経営者の自宅には注文していないピザが深夜に届き、殺害予告まで書き込まれる激しさだった。

 ウォール街の情報量や資金力は個人投資家を圧倒する。「彼らの食い物にされてきた」という個人投資家の不満が爆発した。結局、投資ファンドは敗退し、米メディアは「エスタブリッシュメント(支配階層)に対する抵抗」と表現した。

Stuart Monk/Shutterstock.com

NYの街頭デモから、SNSを武器にした実力行使へ

 株投資はスマホで簡単に、しかも手数料なしで出来る。コロナ対策で政府が給付した現金を原資として「参戦」した未成年者も多かったという。ウォール街で起きた騒動だが、視野を広げれば、一般大衆の富裕層への憎悪や怒りが見えてくる。

 2011年9月、ニューヨークで「ウォール街を占拠せよ」と叫ぶ大規模なデモが頻発した。リーマンショック後の不景気の中、金融機関に対する政府の救済、富裕層への優遇措置などへの批判が高まっていた。

 貧富の格差はその後更に拡大。いま米国では富裕な上位1%の人々が富全体の32%を握り、下位50%の人々は合計しても1%にすぎない。怒りの表明は、10年前は街頭デモだったが、今やSNSを武器にした実力行使が取って代わった。

 では富裕層とはどのような人々であり、日ごろ何を感じているのか。筆者が知る一人のユダヤ人投資家(本業は弁護士)の事例を紹介する。

ナチスの迫害逃れてポーランドから米国へ

 第二次大戦前後、ナチスの迫害を受けた多くのユダヤ人が米国に移住した。ポーランドに生まれ、今ロサンゼルスの高級住宅地に住むS氏(99歳)もその一人だ。戦後、弁護士のかたわら不動産投資ファンドを運営し、今では500億円を超す資産がある。

 S氏が15歳のとき、ドイツ軍がポーランドに侵攻した。洋服の仕立て職人だった父親は妻子を連れてポーランドを脱出。際どいところで収容所送りを免れたが、脱出の機会を逸した親戚はほとんど殺されたという。

 S氏は新聞配達をしながらシカゴ大学法学部に進んだ。冬は寒冷で知られるシカゴ。配達を終えると、吐く息で顔が真っ白になった。苦学の末に弁護士になり、住居を気候温暖なロサンゼルスに移した。

 友人たちから集めた資金で不動産ファンドの運営を始めた。主な投資対象はショッピングセンターだ。経営が傾いたショッピングセンターを買い取り、資金を投じて魅力的な店舗に改装。数年して客足が戻ると、高値で売って利潤を手にした。

 S氏は「物件を一目見るだけで、どこをどうすれば儲かるかがピンとくる」という。

富裕層と知られたくない警戒心が働く

 高齢のS氏は今もファンド経営を続けている。印象に残るのは、自らが富裕層であることから来る社会への警戒心の強さである。

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