SNSの時代、国民に改革要求の気運をもたらす契機に
2021年02月14日
女性侮蔑の発言をした森喜朗元首相が、ついに東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の会長を辞任した。
発言の直後、政府は本人に謝罪させ、IOCと示し合わせて森会長を続投させようとした。「余人をもって代えがたい」というが、森発言には五輪事務の継続を上回る深刻な問題が含まれていることを認識できなかった。
報道によると、森氏は発言後に辞任の意向を示したが、武藤敏郎事務総長らが引き留めたという。これが森氏に「オレは必要とされている」と誤解させ、後々、事態をこじらせる原因になった。
森発言は要するに「女は口を慎め」という攻撃的な内容である。海外の最初の非難はカナダのIOC委員ヘイリー・ウイッケンハイザー氏から寄せられた。「東京でこの男を絶対に問い詰める」という激しい怒りに、政府や五輪関係者は、森発言の影響の大きさに初めて気づいた。
橋本聖子五輪担当相は2月4日の会見で「首相に言われて森氏に電話した」と明かした。彼女は男女共同参画担当相でもあり、今回の問題の結節点にいた。しかし、上から指示されて初めて電話したのだった。
男女平等というグローバル・スタンダードをめぐる、世界との深刻なズレ。日本の男女平等が付け焼刃であり、実体は後進国レベルであることを世界に宣伝してしまった。
森氏が自分の後任を旧友の川渕三郎氏にしようと動き回ったことは、この国にはびこる別の弊害も浮かびあがらせた。密室性や長老支配である。その実態がこれほど生々しく表面化することは珍しい。
森氏は相談役になる意向だったようだが、これは民間企業でもよく見られる光景だ。権力の座にあった会長が引退にあたって相談役での処遇を求める。いつまでも部下からチヤホヤされたい、秘書や車、個室を使いたい……。
いまとなっては後の祭りだが、もし発言直後に菅首相が素早く森氏に「発言は不適切だった。遺憾である」と伝えておけば、森氏はその意を汲んで早期辞任に踏み切ったかもしない。
しかし、首相は、「それは組織委員会が決めること」と、建前だけ述べて逃げた。五輪には国民の巨額の税金がつぎ込まれている。首相が納税者の代表として森氏個人に意見を言うことはおかしくない。
「泣いて馬謖を斬る」ということわざがある。首相にとっては辞任を促すことで、就任以来の劣勢を挽回する機会でもあったが、その役割は4者会談への出席を拒否した小池都知事に取られてしまった。
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