木代泰之(きしろ・やすゆき) 経済・科学ジャーナリスト
経済・科学ジャーナリスト。東京大学工学部航空学科卒。NECで技術者として勤務の後、朝日新聞社に入社。主に経済記者として財務省、経済産業省、電力・石油、証券業界などを取材。現在は多様な業種の企業人や研究者らと組織する「イノベーション実践研究会」座長として、技術革新、経営刷新、政策展開について研究提言活動を続けている。著書に「自民党税制調査会」、「500兆円の奢り」(共著)など。
SNSの時代、国民に改革要求の気運をもたらす契機に
女性侮蔑の発言をした森喜朗元首相が、ついに東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の会長を辞任した。
発言の直後、政府は本人に謝罪させ、IOCと示し合わせて森会長を続投させようとした。「余人をもって代えがたい」というが、森発言には五輪事務の継続を上回る深刻な問題が含まれていることを認識できなかった。
報道によると、森氏は発言後に辞任の意向を示したが、武藤敏郎事務総長らが引き留めたという。これが森氏に「オレは必要とされている」と誤解させ、後々、事態をこじらせる原因になった。
森発言は要するに「女は口を慎め」という攻撃的な内容である。海外の最初の非難はカナダのIOC委員ヘイリー・ウイッケンハイザー氏から寄せられた。「東京でこの男を絶対に問い詰める」という激しい怒りに、政府や五輪関係者は、森発言の影響の大きさに初めて気づいた。
橋本聖子五輪担当相は2月4日の会見で「首相に言われて森氏に電話した」と明かした。彼女は男女共同参画担当相でもあり、今回の問題の結節点にいた。しかし、上から指示されて初めて電話したのだった。
男女平等というグローバル・スタンダードをめぐる、世界との深刻なズレ。日本の男女平等が付け焼刃であり、実体は後進国レベルであることを世界に宣伝してしまった。
森氏が自分の後任を旧友の川渕三郎氏にしようと動き回ったことは、この国にはびこる別の弊害も浮かびあがらせた。密室性や長老支配である。その実態がこれほど生々しく表面化することは珍しい。
森氏は相談役になる意向だったようだが、これは民間企業でもよく見られる光景だ。権力の座にあった会長が引退にあたって相談役での処遇を求める。いつまでも部下からチヤホヤされたい、秘書や車、個室を使いたい……。
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