コロナ禍が続くほど株価は上がる?「最大のリスクはコロナ終息」というモラルハザード
株価3万円! 「官製バブルは終わらない」という市場の退廃
原真人 朝日新聞 編集委員
日経平均株価が30年半ぶりに3万円を突破した。市場からは「1989年12月の大納会に記録した史上最高値(3万8915円)も射程に入ってきた」という強気の声さえ聞こえるようになった。
この大台乗せは、歓迎すべき時代の訪れを告げる吉報なのか。あるいは、いずれ来るバブル崩壊のマグマをため込んだにすぎぬ「良くないニュース」なのか。

日経平均株価の終値が3万円台をつけた=2021年2月15日、東京都中央区
その問いを考える前に、まず偉大な歴史の観察者でもあった大経済学者の言葉を借りたい。市場の法則……というより人間の性(さが)とでも言うべきものを頭に入れておくためである。
「この次の大がかりな投機のエピソードはいつ来るだろうか? それはどのようなもの――不動産、証券市場、美術品、ゴルフ場、骨董品の自動車――について起きるだろうか?といった問いである。こうした問いに答えはない。誰にもわからない。答えようとする人は、自らの無知がわかっていないのだ。しかし、確実なことが一つある。それは、こうしたエピソードはまた生まれるだろうし、その先にはもっとあるだろう、ということである。昔から言われてきたように、愚者は、早かれ遅かれ、自分の金を失う。また、悲しいかな、一般的な楽観ムードに呼応し、自分が金融的洞察力を持っているという感じにとらわれる人も、これと同じ運命をたどる。何世紀にもわたって、このとおりであった。遠い将来に至るまで、このとおりであろう」 ジョン・K・ガルブレイス (『バブルの物語』1991年)
カネ余りがもたらす史上最高値
日経平均株価は2月15日に1990年8月以来、30年6カ月ぶりに3万円の大台に乗せた。新型コロナウイルスの感染拡大が国内で大問題になり始めた昨年3月には1万6千円台なかばだったから、コロナ禍で経済が大打撃を受けているこの1年足らずの間に、株価は8割も上がったことになる。
株式市場の活況は東京市場だけの現象ではない。世界中の株式市場で最高値の更新が続いている。コロナ感染の大爆発があった米国がその筆頭だ。代表的な指標であるダウ平均株価が昨年来、基調として上昇を続けている。2月に入ってからも相次ぎ最高値を更新しており、政権が変わろうと、コロナ禍が思ったより長期になりそうな情勢だろうと、勢いに衰えは見えない。
もちろんこの状況を市場関係者たちが手放しで喜んでいるわけでもなさそうだ。コロナショックでこれだけ経済が苦境に陥っているのだから、誰の目からみても現下の実体経済と株価は驚くほど乖離(かいり)している。
とはいえ、「だからこのままではいけない」という話にはならないようだ。30年ぶりに訪れたバブル的株高の流れに、多くの市場参加者が「乗り遅れまい」としている。「すぐに潮目が変わることはないだろう」とも言い合っている。
もちろん市場を分析しているエコノミストたちにはリスクがあることは認める人々も少なからずいる。それでも、株価は当面崩れない、という予測が大勢なのだ。
BNPパリバ証券の中空麻奈チーフクレジットストラテジストは、この現状を金融緩和と財政政策によって形成された「合理的バブル」と表現する。
つまり株価の水準そのものは実体経済からいえば行きすぎでも、中央銀行による金融緩和と政府の財政出動が裏付けになっている以上、投資家にとっては手堅い投資なのだということだ。だから「異常だが、株式市場は何があっても強い」(中空氏)という。
当の証券業界はどう受け止めているのだろうか。野村ホールディングスの永井浩二会長は、2月19日付の日本経済新聞のインタビューで、「今は世界、そしてアジアの成長を取り込む企業の株価が買われて上位にきている。株式指標面などからもバブルと言える状況ではない」と述べている。「米国市場では個人投資家がゲーム感覚で株式投資をするバブルのような感じも少し見受けられる」とも言うが、業界にとっては「やがて崩れるバブル」とは考えたくないところだろう。
相場上昇のエンジンであるカネ余りを作っているのは世界中の政府と中央銀行だ。コロナ禍でいっせいに財政出動と金融緩和が進む。コロナ終息まではこうした世界あげてのマクロ政策は止まらない。だから当分は世界的なカネ余り現象は終わらないと読み、投資家たちは強気になっているのだ。