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「キッズライン問題」とジャーナリズムの役割①

経済ジャーナリズムは必要か

中野円佳 フリージャーナリスト

だれかが書かないといけない

 私自身は埼玉県での殺害事件が起こった2014年当時、日本経済新聞社の記者であり、子育てやシェアリングエコノミーの取材をしていた。2015年3月で新聞社を退社してからも、フリージャーナリストとして近しい領域の記事や書籍を執筆する中で、たびたびキッズラインの広報姿勢に危うさを感じることはあった。

 補助金利用時の税処理など、自分たちの都合のいいことは派手に宣伝をするのだが利用者にとって大事な情報が欠けていることもあったし、シッター募集の方法等も、前のめりすぎないかと危惧していた。

 ただ、私自身は2017年からシンガポールに夫の転勤で帯同しており、2020年春のわいせつ事件発生時は、自分の子どもたちもコロナ禍での休校だったこともあり、逮捕者が出たというニュースにしばらく気づかなかった。

 病児保育等を手掛けるフローレンスの駒崎弘樹氏らがnote記事等で事件の発生について発信をはじめたことで、ようやく5月中旬に事件のことを知った私は、日本にいる信頼できるジャーナリスト数人に聞いて回った。

 「この件、もっと追ったほうがいいと思いますけれど、動かれていますか?」

 大手メディアは軒並み社名を載せておらず、キッズライン側も静かにホームページ上にお知らせを載せたのみ。利用者にこのようなことが起こり得るというリスクが周知されていないのではないかと感じたためだ。

 密室で第三者の目が入りにくい形態で、しかも被害に遭うのは子ども。性被害は長期的に影響を及ぼすこともあるし、命すら脅かされ得る。

 この時点では悪質な加害者がたまたま1人キッズラインに紛れ込んでしまった可能性も考えていたが、いずれにせよ利用者も、このようなことが起こったということを知っておけば、それで100%防げないにせよカメラの設置や録音をする、在宅時に利用するなどの対処もできるだろうと感じていた。

 自分がシンガポール在住で警察などへの取材ができないため、誰かが書いてくれればそれでいいし、あるいは協力して問題提起できないかと思った。しかし、それぞれジャーナリストには得意分野もあり、またコロナ対応の別の記事を書いていたりして、このことを主導してやっていこうという方を見つけることができなかった。

 次に知り合いの編集者数人に「媒体として取り上げる予定はありますか」と聞くが、これまた「コロナで自分の子どもも休校で、フォローできていません」という状況だった。プラットフォームやシッター業界の仕組みを一番理解しているはずの子育て中の記者は今、動きづらい。そう感じて、某週刊誌に話を持ち込んだ。女性記者の方は関心をもってくれていたが、編集会議で通らなかった。

シンガポールからの提案

 自分でやるしかないと感じた私は、まずは記事を書く時間がないので、以前出演したモーニングクロスで問題点を整理して提起させてほしいと連絡をし、5月29日の出演が決まった。同時にBusiness Insider JapanとBuzzFeedでモーニングクロスでの主張をまとめた記事と専門家と対談する記事をそれぞれ提案した。

 この時には、キッズライン個社の問題を取り上げるというよりは、他国に比べ子どもにかかる大人たちへの犯罪歴チェックができず、わいせつ事件が繰り返される可能性がある日本の現状を訴えるつもりだった。しかし、その後、本件は思いもよらぬ展開になっていく。

 モーニングクロスとの出演を調整しているまさにその時に、のちに2人目の逮捕者となる別の加害者が、キッズラインを通じて預かった女児に繰り返しわいせつを働いていたのだ——。

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筆者

中野円佳

中野円佳(なかの・まどか) フリージャーナリスト

東京大学教育学部卒業後、日本経済新聞社。2014年立命館大学大学院先端総合学術研究科修士号。2015年よりフリージャーナリスト、東京大学大学院教育学研究科博士課程。過去に厚労省「働き方の未来2035懇談会」、経産省「競争戦略としてのダイバーシティ経営の在り方に関する検討会」委員。2017年よりシンガポール在住。著書に『「育休世代」のジレンマ』『なぜ共働きも専業もしんどいの』など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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