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コロナバブルの崩壊に備える議論を

消費税だけではない「ポストコロナ」の新たな税制

小此木潔 ジャーナリスト、元上智大学教授

 世界の株式市場で「コロナバブル」が生まれている。厄介なことにこの状態は当面続くと見られ、そのあとにはバブル崩壊が世界経済を直撃する可能性がある。そうした事態に備えるとともに、ポストコロナの経済社会を考えるためにも、今から税制のありようについて本格的な議論をしておく必要がある。

はじけるまで膨張する世界的バブル

日経平均株価の終値が3万円台をつけた=2021年2月15日、東京都中央区

 新型コロナ感染症のパンデミックで大恐慌以来の景気悪化を経験した世界経済は、繰り返すコロナの波状攻撃に苦しみながらも、意外なほどの回復力を示してきた。3万ドル台に乗せているニューヨーク株式市場のダウ平均や、2月に3万円を回復した東京証券取引所の日経平均の動きも、世界経済の回復を好材料として受け止めている。

 だが、何といっても世界的な株高は実体経済の回復だけでは説明できない。コロナ不況を乗り切るための世界規模での金融財政政策により、ジャブジャブのマネーがニューヨークやロンドン、東京などの金融証券市場になだれ込み、巨大な買い圧力となって株価を押し上げてきたのである。東証の活況は、もはや日本銀行や年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による巨額の資金投入によるだけでなく、ニューヨークをはじめとする世界の金融市場と同様にグローバルな超金融緩和に引きずられたいわゆる「金融相場」(不況下の株高ともいわれる)なのである。

 今のような相場はバブルだ。日本の1980年代のように活発な消費を伴うバブルとは様相がいささか異なるが、実体経済の回復・拡大速度を上回る資産価格の大幅な上昇というバブルの定義に当てはまるのである。コロナ対策が生んだバブルだから「コロナバブル」と呼んでいいだろう。

 コロナのワクチンが普及して経済が回復すれば、やがては過熱を抑えるために金融引き締めが始まって株価が下落する展開になるのは避けられない。しかし、コロナバブルを長引かせる要素もあり、崩壊の日を迎えるまで膨らみ続けるので犠牲も大きくなってしまう、という展開になりそうだ。

 その理由は米国にある。誕生して間もない民主党バイデン政権は、金融引き締めを遅らせようとする一方で、1.9兆ドル(約200兆円)という空前の補正予算で景気刺激を図ろうとしている。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長も当面、金融引き締めはやらないという姿勢を示している。最近になって市場金利が上がる傾向を見せたが、政策金利は維持する構えである。

 国際通貨基金の世界経済見通し(今年1月の見直し版)で米国の2021年の成長率の予測は5.1%という高さである。回復が遅れる欧州や日本をよそに米国と中国がポストコロナの世界経済を引っ張るようにも見える。

 ワクチンの普及による経済活動の回復が見込まれる。特にこれまでコロナ禍で手控えられていた消費がぐんと増えるだろう。それなのに、金融や財政でなお大規模な経済刺激策を採るのはなぜか。答えは過去の反省とトランプ対策である。

 民主党の支持層であるはずの労働者をトランプに奪われた2016年の大統領選挙の要因の一つが、米国の経済の歪んだ発展にあった。労働者や中間層の所得が増えず、格差拡大で国民は経済成長を実感できなかった。そうなったのは、2008年のリーマン・ショック(世界金融恐慌)に際してとった景気刺激策が小さすぎたため、普通の労働者や低所得層の生活の改善に役立たなかったという反省がいまの民主党政権にはある。だから今回は、オバマ政権が2009年に採った景気刺激策のおよそ2倍の規模の対策で一気に底辺まで届く好況を作り出し、労働者の賃上げへと結びつけようという狙いがバイデン政権の大型予算につながっているようである。(「ニューヨーク・タイムズ」3月1日電子版“The $1.9 Trillion Question in the Senate”参照)

 民主党政権の思惑としては、さまざまなものがあるのだろう。本格的な好況を作り出せれば、トランプの復活を阻止できる。中国との経済競争でも優位に立てるかもしれない。財政赤字が増えても、好況で2-3%程度のインフレになれば、財政赤字のGDP比は目減りしてゆくから、気にしなくて済む――といったことである。

バブル崩壊のツケを誰が払うか

 しかしバイデン政権の積極策は、危うさをはらむ。バブルが制御不能なまでに膨らみ続け、その崩壊で米国はもとより世界経済が大打撃を受けることになりかねない。へたをすれば、それで世界デフレの引き金を引いてしまうかもしれない。そのあげく、世界はまた大規模な金融財政政策によって不況対策を繰り返すのだろうか。それも悪夢だ。

 先行きは予測しがたいが、最悪の事態も念頭に置きながら、世界的なバブル崩壊への備えについて議論を進めるべきではないか。

 バブル崩壊といえば、日本の場合、その結末は1990年代以降の長期デフレであった。その過程で金融機関の不良債権処理や不況対策のために公的資金がつぎ込まれ、政策のツケは財政赤字となって跳ね返り、のちの消費税引き上げへとつながっていった。バブルはたいがいのところ、金融市場の行き過ぎが原因で膨らみ、崩壊で生じる不況や「大きすぎてつぶせない」金融機関の救済などは庶民の税金でまかなわれる。

 このままいけば、今回も似たような展開になるのではないかと心配だ。コロナ不況対策で空前の財政出動が行われ、その後に来るバブル崩壊でさらに財政と金融は傷んでゆくとすれば、その帳尻合わせにまたしても消費増税を、という主張が経済界や財務官僚、保守政党から出てくる可能性は大きいのではないか。だがそうやって消費税頼みを繰り返していては、結局のところ「福祉財源としての消費税」という建前はますます色あせる。さらに深刻なのは、消費がまた落ち込み、消費税の逆進性で格差が拡大してしまうことである。

 そうなれば日本経済の成長が

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