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「キッズライン問題」とジャーナリズムの役割⑤

止まらないタレコミ

中野円佳 フリージャーナリスト

「キッズライン問題」とジャーナリズムの役割①

「キッズライン問題」とジャーナリズムの役割②

「キッズライン問題」とジャーナリズムの役割③

「キッズライン問題」とジャーナリズムの役割④

 先週、キッズラインは内閣府の補助金事業で本来シッターに義務付けられていた自治体への届出を無届のままマッチングしていたことで、補助金2690万円を返還することになった。

 実はこの件について行政が把握したのは2020年末だが、私はその半年前の6月8日にキッズライン社への質問状の中で「サポーター(シッター)に対し、自治体の登録届出を全員に義務付けたのはいつからですか」「登録サポーターについて、自治体の登録届出をしたことを全員分確認していますか」という質問を入れていた。

 このときは回答を得られなかったが、私がその質問をしようと思ったのは、シッター経験者などの関係者から「届出は最後まで確認していないのでは」という声が上がっていたからだ。企業がかかえる様々な問題にいち早く気づいた関係者からの告発が、企業行動を正す報道につながる。

キッズラインのホームページから拡大キッズラインのホームページから

50人以上から届いた告発

 前回書いた2人目のキッズライン登録シッターによる事件前後に話を戻そう。私が取材したAさんの長女が被害に遭っていたのは、2020年4月末から5月25日の間の複数回だった。

 Aさんが、加害者にはもちろんのこと、キッズラインにも怒りを覚えていたのは、4月24日に1人目の逮捕者がでたことをもっと早く公表し周知してくれていたら、自分の長女は被害に遭わなかったかもしれないという思いからだった。

 後に懲役3年執行猶予5年を言い渡された2人目の被告自身も、公判を傍聴した人によれば、被害者家族側の弁護士からの質問に対し「1人目の逮捕の件を知っていたら、やらなかったかもしれない」と答えている。

 ところが、1人目の逮捕者が出た後ばかりではなく、2人目の逮捕者が出ても、キッズライン社はホームページ上のお知らせを加筆修正するのみで、「厳格な審査をしている」と主張。2020年5月半ばまで積極的にSNSで発信をしていた経沢香保子社長はここから8月まで沈黙し続けた。

告発と事実確認取材

 会社から利用者宛のメールや社長からの納得がいく説明がないのを見て、しびれをきらしはじめた関係者は多かった。私の元に、FacebookやTwitterでキッズライン社に関するタレコミが毎日何通も届くようになったのだ。

 容疑者が派遣されていた家庭、シッター、利用家庭の中でシッターの研修を任されている「ママトレーナー」……。関係者からメッセージが次々と届き、最終的に少しでもやりとりをした人数は、こちらからアプローチした人も含めて50人を超えた。

 もちろん、ジャーナリストとして、SNSを通じて送られてくるメッセージ1つ1つを鵜呑みにしていいとは限らない。相手の立ち位置が分からない場合もあったし、多くの人が事実を話しているとは思われるものの、その人の勘違いということもあり得るし、不満はあっても客観的に問題とは言えないこともあるからだ。

 一方で、事実確認をしようにも、前回書いたようにキッズライン側が回答しない姿勢だったために、こちらで裏取りをするしかない。

 たとえば「こんなことがあった」という証言がママトレーナーからあれば、他のママトレーナーにも質問をし、利用者側にもそのような事例に遭遇したことがあるかを聞くなど、別の立場の関係者が知っている話を照合するといった作業をした。そして、事実と認定して良いであろう状況を特定していった。

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筆者

中野円佳

中野円佳(なかの・まどか) フリージャーナリスト

東京大学教育学部卒業後、日本経済新聞社。2014年立命館大学大学院先端総合学術研究科修士号。2015年よりフリージャーナリスト、東京大学大学院教育学研究科博士課程。過去に厚労省「働き方の未来2035懇談会」、経産省「競争戦略としてのダイバーシティ経営の在り方に関する検討会」委員。2017年よりシンガポール在住。著書に『「育休世代」のジレンマ』『なぜ共働きも専業もしんどいの』など。

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