電力会社の原発部門が抱く疎外感や被害者意識の理由
2021年03月27日
東京電力の柏崎刈羽原発で、テロ対策用の装置が長期間故障し、外部から侵入できる状態になっていたことが、原子力規制委員会の抜き打ち検査で分かった。
「代替措置をとっていた」と弁解する東電に対し、規制委は「安全文化に問題がある」として、近く是正措置命令を出す。追加検査に1年はかかると見られ、原発再稼働を経営再建の柱にする東電にとって打撃になった。
この失態は「ずさん」「気の緩み」といった批判の言葉では理解しきれないものがある。原発が本格運転を始めた1970年代以降、電力業界は「事故隠し」などの不祥事を何度も起こし、その都度処分を受けながら、性懲りもなく繰り返してきた。
電力業界の中でも、原発には他部門とは異なる構造的な問題がある。過去の主な不祥事を紹介する。
1976年、最初の大きな事故隠しが発覚した。稼働5年目の関西電力美浜原発の核燃料棒が破損した事故だ。同社は通産省(当時)に虚偽の報告をして4年近く隠し、厳重注意処分を受けた。
81年には日本原子力発電の敦賀原発で冷却水が漏れる事故が起きた。秘密裏に修理しながら発電を続けていたことが発覚し、6か月の運転停止処分を受けた。
2000年には、東電の福島、柏崎刈羽原発の点検で、シュラウド(炉心を覆う円筒状の構造物)のひび割れが6か所見つかったが、記録は3か所に改ざんされた。米原発メーカーのゼネラル・エレクトリック(GE)の技術者が写真付きの告発文書を通産省に送ったことで発覚した。
この政府調査にはGEが協力。東電も改ざんを認め、80~90年代に計29か所の改ざんがあったことが判明した。刑事告発は免れたが、当時の南直哉社長はじめ会長、相談役ら5人が、社内と財界団体の役職を全て辞任した。
2019年には、関電の役員ら多数が福井県高浜町の元助役から多額の金品を受け取っていたことが発覚した。この件では現在、株主ら49人が現旧役員に対して計69億円の損害賠償を求める株主代表訴訟を起こしている。
上記以外にも、トラブル発生を地元自治体に連絡せず、後で露見して詫びるというケースが過去たくさん起きている。連絡が来なければ自治体の対応は遅れ、住民の不安は募る。
1990年代、筆者は東電の企画部長だった勝俣恒久氏(後の社長、会長)に、「原発の事故やトラブルをなぜ隠そうとするのか。迅速に正しく公表する姿勢がなければ、国民の理解は得られない」と問うたことがある。
勝俣氏の答えは意外なものだった。「本心を言えば、原発はやりたくてやっているわけではないですよ。国がやらなくてもいいと言ってくれたら、すぐにでもやめます」。
国のエネルギー安全保障政策の下で原発を推進しているが、故障やトラブル、社内不正が絶えない。そのいら立ちが、本音を言わせたようだった。同じような感想は、関電幹部からも聞かされた。
原発は高度で複雑な巨大技術である。広範な技術や知識を必要とし、設備投資額もけた外れに大きい。電力の原発部門は一見エリート部門に思えるが、社内の受け止め方は違う。「統御できない独立部隊」のごとくで、持て余し気味というのが実態に近い。
しかも世間では様々な原発批判が渦巻いている。放射能事故への不安、割安とされる発電コストへの疑問、立地自治体への予算バラマキ批判など、いずれも原発以前の電力業界にはなかったものだ。こうした環境の中で原発部門がどういう心理に陥るかは想像がつく。
まず「国民に理解されない」という疎外感や被害者意識。そして組織防衛のために事故やトラブルは出来るだけ隠し、データを改ざんして小さく見せようとする秘密主義が生まれる。
しかし、秘密にすればするほど、実際には内部告発や社外へのリークが増える。犯人探しが始まり、秘密主義や閉鎖性は強固になり、世間の常識からずれていく。今回の柏崎刈羽原発の問題もその延長線上にある。
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