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「キッズライン問題」とジャーナリズムの役割⑨

母親目線の報道が大手メディアも動かした

中野円佳 フリージャーナリスト

 「子どもの預かりサービスを仲介する事業者としては、社会的責任や求められる倫理観に照らして適切な認識であったとは言い難く、深く反省し、補助金の対象事業であるか否かにかかわらず、そもそも子どもの預かりサービスを仲介する事業者として改めて社会的責任を痛感いたしました」

 キッズラインは3月29日、自治体への届出未確認問題についての報告書を公表し、その中でこのように反省の弁を述べた。わいせつ事件があり、その後さまざまに反省と改善がされたはずだったにもかかわらず、再度の不祥事が判明したわけだ。

キッズラインのホームページから拡大キッズラインのホームページから

 この企業の最大の問題は、ガバナンスが効いておらず、自浄作用がないことだ。偽造レビュー問題についても、情報提供者や協力者の方々がいなければ指摘されることはなく、キッズライン社が自社で改善に動くことはなかっただろう。こういう企業だから、ジャーナリストが記事を書き、当事者の声を拡声器となり伝える必要がある。

 2020年5月のキッズライン登録シッターによるわいせつ事件の被害者の母Aさんは、取材過程で私に「事件が発覚してよかった」と語ったことがある。「思春期になってから、『実はあのときこうだったんだよ』って言われるようなことにならなくて、よかった」と。

 Aさんの長女は、事件後にAさん夫妻が寄り添いつづけたことで、それまでよりも嫌なことは嫌と言えるようになり、家族の絆も強まったと感じるという。事件に遭ってよかったというわけはもちろんないが、事件があった以上、すぐに発覚して良かった。

 それだけに、発覚していなかったらと思うと恐ろしさに震えるという。他にもそういう風に思う親子が出てこないようにというのがAさんの想いだった。

キッズラインのホームページから拡大キッズラインのホームページから

大手メディアとの連携を探る

 実は、2020年6月にキッズラインでわいせつ容疑をかけられた2人目のシッターが逮捕された前後で、私は社会的影響の大きさを勘案し、Aさんと相談の上で大手メディアに対して情報提供を申し出ている。

 Aさんはキッズライン社が利用者に周知をしないのであれば、メディアの力で広くこの問題が知られてほしいと思っていたため、テレビ局や新聞社で関連取材をしていそうな記者に、場合によってはAさんが取材に応じられると連絡した。

 しかし、ほとんどのケースでこの時点での取材は断られた。私自身もメディアにいたことがあるのでわからなくもないのだが、マスコミは縦割りで、逮捕報道をする警視庁担当と子育て関係の記事を長期的に追える担当も異なるし、テレビに至っては事件が起こった直後ならともかくニュース性がないものを取り上げづらい。

 2人目のシッターが逮捕された翌週、被害者家庭への取材は間に合わなかったが、私がビデオ出演等でコメントする形で日テレ「スッキリ」、フジ「めざましテレビ」などが2人目のシッター逮捕について、社名を出して報道しはじめた。

 ある事案を1メディアが報じても、他が追従しなければ、そのニュースが広く知られることにはつながらない。とりわけ私はネットメディアのみで書いていたこともあり、読まれる数が少なければ、世の中的なインパクトはほとんどなくなってしまう。

 社名を出して報道をする大手メディアが出てくると同時に、こちらにもどこのメディアのどの記者が動いているのかが見えやすくなってきた。7月にかけてもキッズライン社の姿勢が変わらなかったため、私はAさんが安心して話せそうな相手と媒体を選んで、Aさんの気持ちを確認しながら再びメディアに紹介をしていった。

 Aさんは朝日新聞、毎日新聞、フジテレビ、NHK等の取材を引き受け、やがて大手メディアがAさんの声とともに、キッズライン問題を取り上げることになった。

朝日新聞デジタル(2020年7月16日)から拡大朝日新聞デジタル(2020年7月16日)から

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筆者

中野円佳

中野円佳(なかの・まどか) フリージャーナリスト

東京大学教育学部卒業後、日本経済新聞社。2014年立命館大学大学院先端総合学術研究科修士号。2015年よりフリージャーナリスト、東京大学大学院教育学研究科博士課程。過去に厚労省「働き方の未来2035懇談会」、経産省「競争戦略としてのダイバーシティ経営の在り方に関する検討会」委員。2017年よりシンガポール在住。著書に『「育休世代」のジレンマ』『なぜ共働きも専業もしんどいの』など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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