移民の潜在力を生かす国、生かさぬ国
コロナワクチン開発の立役者はトルコ移民、米IT企業CEOにも移民がいっぱい
木代泰之 経済・科学ジャーナリスト
ドイツのバイオ企業ビオンテックの注目度が高まっている。米ファイザー社と共同開発したコロナワクチンが評価され、変異株についても「技術的には6週間あれば対応できる」と自信を見せている。
ウイルス変異に対応しやすいmRNA型ワクチン
従来のワクチンは不活化ウイルスなどを投与するが、ビオンテックはウイルスの遺伝子であるメッセンジャーRNA(mRNA)を活用する。斬新な発想で、ウイルスが変異しても新しいmRNAに置き換えればよいので対応しやすい。

独バイオ企業ビオンテックのウール・シャヒン最高経営責任者(CEO)=同社提供
ビオンテックは2008年創業。CEOのウール・シャヒン氏と、研究リーダーを務める妻のテュレジさんが共にトルコ移民の2世であることが、もう一つの関心を呼んでいる。
シャヒン氏は1965年トルコ生まれ。4歳のとき母親とドイツに渡り、自動車工場労働者だった父親に合流。医師になり、大学病院で働いている時に妻のテュレジさんと知り合い結婚した。テュレジさんはトルコから移住した外科医の娘だ。

ビオンテックのエズレム・テュレジ最高医療責任者(CMO)=同社提供
戦後ドイツの労働力不足を補った「ガスト・アルバイター」
ドイツが外国人労働者の受け入れを始めたのは1961年。戦後復興に伴う労働力不足を補うのが目的で、トルコ人はドイツ人が嫌がる道路建設や石炭採掘の仕事を担った。
彼らは「ガスト・アルバイター」(お客労働者)と呼ばれ、当初は2年間の短期滞在を前提とする「出稼ぎ労働者」だった。このためドイツにおけるトルコ移民は露骨な差別や暴力の対象にされてきた。
しかし、雇用する企業が「せっかく技術を習得したトルコ人を入れ替えるのはコスト高になる」と短期滞在に反対し始め、働く側も家族をドイツに呼び寄せて定住する動きが広がった。