コロナワクチン開発の立役者はトルコ移民、米IT企業CEOにも移民がいっぱい
2021年04月18日
ドイツのバイオ企業ビオンテックの注目度が高まっている。米ファイザー社と共同開発したコロナワクチンが評価され、変異株についても「技術的には6週間あれば対応できる」と自信を見せている。
従来のワクチンは不活化ウイルスなどを投与するが、ビオンテックはウイルスの遺伝子であるメッセンジャーRNA(mRNA)を活用する。斬新な発想で、ウイルスが変異しても新しいmRNAに置き換えればよいので対応しやすい。
ビオンテックは2008年創業。CEOのウール・シャヒン氏と、研究リーダーを務める妻のテュレジさんが共にトルコ移民の2世であることが、もう一つの関心を呼んでいる。
シャヒン氏は1965年トルコ生まれ。4歳のとき母親とドイツに渡り、自動車工場労働者だった父親に合流。医師になり、大学病院で働いている時に妻のテュレジさんと知り合い結婚した。テュレジさんはトルコから移住した外科医の娘だ。
ドイツが外国人労働者の受け入れを始めたのは1961年。戦後復興に伴う労働力不足を補うのが目的で、トルコ人はドイツ人が嫌がる道路建設や石炭採掘の仕事を担った。
彼らは「ガスト・アルバイター」(お客労働者)と呼ばれ、当初は2年間の短期滞在を前提とする「出稼ぎ労働者」だった。このためドイツにおけるトルコ移民は露骨な差別や暴力の対象にされてきた。
しかし、雇用する企業が「せっかく技術を習得したトルコ人を入れ替えるのはコスト高になる」と短期滞在に反対し始め、働く側も家族をドイツに呼び寄せて定住する動きが広がった。
こうした変化を受けて2000年には「血統主義」だった国籍法が改正され、国内で生まれた移民の子どもにもドイツ国籍を与える「出生地主義」が加わった。
2005年には「移民法」が新たに成立。外国人労働者は苦手なドイツ語を600時間学習することが義務づけられ、ドイツの歴史や法律、民主主義の価値観などを学ぶことになった。ドイツは「移民国家」に舵を切ったのである。
現在、ドイツに住む移民やその子孫は1930万人で、全人口の2割を超え、半数がドイツ国籍を取得している。全体の15%がトルコ出身で、ポーランド、ロシア、ルーマニアなどが続く。
一方で、増える移民や難民を排斥する動きも激化している。右派ポピュリスト政党「ドイツのための選択肢」は州議会選挙で大躍進し、外国人労働者、とりわけトルコ人らイスラム教徒を敵視する。
そうした政治リスクが高まる中で、トルコ移民2世が創業したビオンテックが大ホームランを打った。同社では世界60か国から来た従業員約1000人が働いている。
その一人でmRNAワクチンの基礎を作った上級副社長カタリン・カリコさんは、1985年にハンガリーから着の身着のまま米国に脱出した移民である。今回のワクチン開発は、いわば移民の力を結集した成果なのだ。
シャヒン氏は「この成功はトルコ人を勇気づける」と語り、シュタインマイヤー独大統領は「ビオンテックのワクチンが人々の命を救った」と称えた。
「移民の国」の本場・米国では、主要IT企業のCEOには移民が数多く就任している(下の表)。
IT企業は1980年代ごろからインターネットの普及と共に成長した。既成の自動車や電機など製造業と異なり、若い移民が実力勝負するのにふさわしいフロンティアだったのだ。
グーグルを1998年に創業した一人であるセルゲイ・ブリン氏は、ソビエト時代のモスクワで生まれた東欧系ユダヤ人で、6歳の時に家族で米国に移住した。今CEOを務めるサンダー・ピチャイ氏も、インドのマドラスで生まれ、インド工科大学を卒業して渡米した。
エヌビディア社はAIのGPU(画像処理半導体)を開発する先端企業である。創業者ジェン・スン・ファン氏は中国生まれ台湾育ちの移民で、オレゴン州立大学に進学した。
「CPU(パソコンなどの中央演算装置)の時代はもう終わる。これからはGPUだ」と、潮流の変化を見抜いて1993年に創業した。車の自動運転やAIのディープラーニングに欠かせない中枢部品メーカーとして世界を席巻している。
ひるがえって日本の状況はどうなのだろうか。
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