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韓国の影を消したいLINEの企業統治

【2】東日本大震災とLINEの誕生/2011年

大鹿靖明 ジャーナリスト・ノンフィクション作家(朝日新聞編集委員)

 朝日新聞のスクープによって、メッセージアプリ「LINE」の個人情報が業務委託先の中国企業からアクセスできる状態になっていることが明るみに出た。中国には国民や企業に諜報活動の協力を義務づける国家情報法がある。日本国憲法は「通信の秘密」を保障しているのに、隣国の中国には丸見えになっているのかもしれない。

 今回の問題発覚後、LINEの日本人幹部だった人の中から「セキュリティーやデータのところは韓国側が所管していてブラックボックスになっていた。会社の中にもう一つの会社があるような感じなんです」という声を耳にした。突きつめていくと、LINEという会社の「企業統治」の仕組みに原因があるように思える。

拡大情報管理に不備があったとして記者会見で陳謝するLINEの出澤剛社長(中央)。右は舛田淳・取締役最高戦略マーケティング責任者=2021年3月23日、東京都港区

至るところに感じた「韓国」の影

 東日本大震災のおきた2011年、LINEは生まれた。開発チームのリーダーとして紹介されたのが稲垣あゆみだった。彼女によれば、社内では10年暮れから何か新しいサービスを開発しようとしていて、候補に挙がったのが写真アプリとメッセージアプリだったという。

 そんなときに震災が起きた。彼女はこのとき高層ビルの23階で仕事をしていたが、ビルがきしむのではないかと思われるほど、長く大きな揺れが続いた。しばらくすると、窓から遠くで煙が立ち上るのが見えた。エレベーターは止まり、非常階段で駆け下りた。家族の安否が気になったが、電話もメールも通じない。両親の安否を確認できたのは、発災から5時間近く経った午後8時過ぎ、両親と同居していた兄からのツイッターかフェイスブックだった。「こういうメッセージアプリを私たちがもっと早く作っておけばよかった」と稲垣。連絡を取りたい人と、いざというときに取れないことを解消したいという気持ちが、LINE開発の動機にあったという。

 大震災をきっかけに生まれた新しいサービスの誕生を、私は延べ12人に取材して「LINE物語」として朝日新聞経済面に連載した。まだ産声を上げてそれほどたっていないLINEの成り立ちを初めて掘り下げた企画だったと思う。

 このときの取材で気になったのは、想像以上の韓国とのつながりの深さだった。LINEの親会社は韓国大手IT企業のネイバーという会社なので、当たり前と言えば当たり前なのだが、それでも至るところに「韓国」の影を感じたのは驚きだった。稲垣の話によれば、きわめて初期段階の企画をリードしていたのは、日本語に堪能な2人の韓国人女性だったという。稲垣は東電の福島第一原発事故後、「東京は危ない」と言われて夫を東京に残したままソウルに避難して、そこで2カ月間滞在し、開発に関わっている。韓国ではライバルのメッセージアプリ「カカオトーク」が先行して人気になり、自分たちは後発と認識していた。本格的な開発チーム10人のうち2人は韓国人だった……。

 LINEの親会社ネイバーは、サムスン電子グループにいた李海珍(イ・ヘジン)が1999年に起業し、韓国におけるヤフーのような検索サービスの大手として成長した。LINEはそんなネイバーの日本拠点として設立され、証券取引法違反事件を起こしたライブドアを買収して飲み込んだ。

 ところが、連載記事の中で親会社について触れるため、LINEの広報担当者にネイバーに関して何点か問い合わせをすると、血相を変えて「韓国」に触れないでほしいという。「そういうわけにはいかないよ」と拒否したが、その要求は執拗で次第に喧嘩腰になった。先方に韓国を隠したい強い意思があることがうかがえた。


筆者

大鹿靖明

大鹿靖明(おおしか・やすあき) ジャーナリスト・ノンフィクション作家(朝日新聞編集委員)

1965年、東京生まれ。早稲田大政治経済学部卒。ジャーナリスト・ノンフィクション作家。88年、朝日新聞社入社。著書に第34回講談社ノンフィクション賞を受賞した『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』を始め、『ヒルズ黙示録 検証・ライブドア』、『ヒルズ黙示録・最終章』、『堕ちた翼 ドキュメントJAL倒産』、『ジャーナリズムの現場から』、『東芝の悲劇』がある。近著に『金融庁戦記 企業監視官・佐々木清隆の事件簿』。取材班の一員でかかわったものに『ゴーンショック 日産カルロス・ゴーン事件の真相』などがある。キング・クリムゾンに強い影響を受ける。レコ漁りと音楽酒場探訪が趣味。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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