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新型コロナのワクチンが1年足らずで開発できた理由~基礎科学が誘発したベンチャーの勝利

米アカデミズムとベンチャーのダイナミズム

吉松崇 経済金融アナリスト

2005年の画期的な発見

 ポストにも経済的にも恵まれなかったが、研究面では、1997年、免疫学者でペンシルベニア大学教授に就任したばかりのワイズマン博士(Dr. Drew Weissman)との出会いが大きな転機となる。ワイズマン博士はエイズウィルス(HIV virus)へのワクチンにカリコ博士のアイデアが使えないかと考え、二人は共同研究を始めた。

新型コロナウイルスワクチンの集団接種(4月24日、北海道網走市で)拡大新型コロナウイルスワクチンの集団接種(4月24日、北海道網走市で)

 二人の試行錯誤の経緯は前述の船引先生の論考をご覧頂きたい。2005年、彼らは化学的に細工を施したmRNAが動物の体内で特定の意図したたんぱく質を安定的に生成することを発見する。彼らは、これは病気の治療にもワクチンにも使用できる潜在性の極めて大きな発見だと考えたが、彼らの論文は科学ジャーナルへの掲載を何度も拒否された。結局、論文は最終的に掲載されたものの、多くの関心を集めることはなかった。当時、mRNAに興味を持つ研究者は多くなかったのだ。

 偉大な科学的発見というのは、当初は人びとから評価されないものなのかも知れない。

 二人は会社を設立し、薬の共同開発と研究費の寄付を求めてアメリカ中の大手製薬会社に熱心にアプローチしたが、どこからも色よい返事が得られなかった。mRNAによる薬の開発は、大手製薬会社にとってはリスクが高過ぎたのだろう。

 だが、mRNAに興味を持った創薬ベンチャーが現れた。アメリカのモデルナとドイツのビオンテックである。後に詳しく述べるが、実はこの2社は、2005年のカリコ・ワイズマン論文に触発されて設立された会社なのだ。

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筆者

吉松崇

吉松崇(よしまつ・たかし) 経済金融アナリスト

1951年生まれ。1974年東京大学教養学部卒業。1979年シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)、リーマン・ブラザース等にて30年以上にわたり企業金融と資本市場業務に従事。10年間の在米勤務(ニューヨーク)を経験。2011年より、経済・金融の分野で執筆活動を行う。著書:『労働者の味方をやめた世界の左派政党』 (PHP新書、2019年)、『大格差社会アメリカの資本主義』(日経プレミアシリーズ、2015年)。共著:『アベノミクスは進化する』(中央経済社、2017年)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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