「8割おじさん」西浦教授の直言に耳を傾けたい
2021年05月01日
新型コロナ感染症の第4波に対し、政府は4月25日から東京など4都府県に3度目の緊急事態宣言を出したが、期限は5月11日までの17日間という短さだ。こんな「短期決戦」で、変異ウイルスの感染拡大をしのぐ成果が上がるのか。説明できていない。
こうした場当たり的対応に追い込まれたのは、政府が東京オリンピック・パラリンピックや経済活動を優先させて感染抑止の手を抜いてきたためだとしか思えない。この局面で大切なのは、昨年の緊急事態宣言で「接触8割削減」という政策の基軸を提唱した西浦博・京大教授が訴えているように、国民の命を最優先する立場から、五輪の再延期や中止について国民的な論議をすることだ。
28日には政府の新型コロナ感染症対策分科会の尾身茂会長も「関係者がオリパラに関わる議論をしっかりやるべき時期に来た」と衆院厚生労働委員会で述べた。政治はもちろんのこと、メディア・ジャーナリズムもまた、公共空間における機能発揮と責任を問われている。
4月23日の菅首相の記者会見では、テレビ朝⽇の記者が五輪について「この状況ですけれども、菅総理はやりたいと、できるとお考えになりますでしょうか」と質した。これに対し首相は五輪についてはIOC(国際オリンピック委員会)が東京⼤会の開催を既に決定しているから「安全安⼼の⼤会にすることができるように対策をしっかり講じてまいりたい」と責任をIOCに丸投げしつつ「五輪ありき」の姿勢を示した。
東京新聞・中日新聞の記者は「各種世論調査では、今年の夏に予定どおりオリンピックを開催すべきだとの意見は少数で、多くの国民は、こんな状況で五輪ができるはずがないと今、思っています。(中略)国民の命を守ることよりも五輪が優先されていませんか」と質問。感染状況がどの時点で、どんな数値になれば五輪を開催し、どんな数値だったら開催しないという具体的な分かりやすい基準を国民に示すべきではないか、と迫った。
ところが首相は、「東京オリンピックの開催はIOCが権限を持っております」と逃げを打ち、「コロナの感染拡大を防止する、国民の命を守る、これは当然、私どもの役割であります。そこはしっかりやりながら、オリンピックも対応していきたい」と、はぐらかした。
質問にまともに答えられない首相の姿は、さきの日米首脳会談終了後の記者会見でも示されていた。ロイター通信記者の「公衆衛生の専門家は日本が五輪を開催する準備ができていないと指摘している中で、開催するのは無責任ではないか」という質問に首相は何も答えなかった。首相がそんな姿を世界にさらしても反省の弁すら述べないのは、政権の延命のための政治的手段として五輪を利用しようと割り切っているからだろうか。
会見に同席した分科会の尾身会長は、宣言解除の時期を問われ、「変異株の感染力とか重症化の影響に加えて、リバウンドへの可能性ということを十分考慮した上で解除することが必要だと思います」と述べ、変異株の感染力とか重症化の影響に加えて、リバウンドの可能性を十分考慮しなければ解除すべきでないと述べた。これは、早くも延長の可能性を示唆したものだが、会見に先立つ国会答弁で宣言の期間について「3週間は必要」と述べていた尾身氏として当然の見解だろう。
尾身氏が懸念する変異株の感染力の強さに加え、ワクチン接種が予定より遅れていることも東京五輪の開催が問題視される要因だ。
4月26日にテレビ朝日の「報道ステーション」に出演したワクチン担当の河野太郎大臣は、「⾼齢者の接種を終えることが、オリンピック開催の基準になると考えていますか」という質問に対し、「これまで、私は『オリンピックはスケジュールに⼊っていません』と
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