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在宅介護から施設入所へ コロナ禍の巣ごもりで見えてきた介護現場の課題

緊急事態宣言の東京で介護施設を運営する来栖宏二代表に聞く

岩崎賢一 朝日新聞社 メディアデザインセンター エディター兼プランナー

 職場の介護施設内だけでなく私生活でも感染対策に気をつける介護スタッフ。オンラインでしか面会できない入所者と家族――。新型コロナウイルス感染症では、高齢者というハイリスク者を多く抱えていることから、介護現場ではこんなストレスフルな生活がもう1年以上続いています。そして、同じような状況が当分の間、続くことは必至です。

 東京都江戸川区で特別養護老人ホームやデイサービスを経営するアゼリーグループ代表の来栖宏二医師は、高齢者たちが「家に閉じこもるようになり、活動性が落ち、機能の低下、体調不良という悪循環を起こしています」と警告します。コロナ禍での介護現場の課題について聞きました。

キーパーソンに聞く・来栖さんインタビューアクリル板で仕切られた机で、アクティビティ活動の習字をする利用者たち(提供写真)

「在宅ではもう無理だ」という家族の声

 アゼリーグループは、特別養護老人ホームやケアハウスといった入所系サービスのほか、リハビリ特化型デイサービスや介護予防・日常生活総合事業のような通所系サービスを提供する介護事業者です。日本語が話せる外国人を積極的に雇用し、管理職への登用もしています。関連の保育園も含め、ダイバーシティ型経営をしています。

――介護施設を運営している立場から、コロナ禍での介護現場の現状と課題を教えて下さい。

 特別養護老人ホームやケアハウスは入居率が上がっています。家族が「在宅ではもう無理だ」ということで、在宅介護でがんばっていた高齢者が今、介護施設に入所するようになっているからです。

 その一方で、デイサービスの利用率は10~20%落ちています。介護施設を運営している全国の知人たちに聞いても、同じ傾向のようです。コロナでそもそも利用控えがあるうえ、緊急事態宣言が出るとさらに利用率が5%ぐらい下がります。それによって、フレイル(虚弱)という体の衰えが進み、在宅介護を受けてきた人たちが、コロナ感染ではなく、季節の変わり目で体調を崩して亡くなるケースが最近、目につきます。デイサービスを利用し、機能維持をしてきたのに、コロナ禍で家に閉じこもることで活動性が落ち、機能の低下、体調不良にいたるという悪循環に陥り、亡くなったり、要介護度が進行したりしたわけです。

キーパーソンに聞く・来栖さんインタビュー利用者たちの日常風景(提供写真)

――コロナ禍でテレワークをする人たちが増えましたが、在宅介護は逆に施設入所にシフトしているのですね。

 そうです。要介護度が高い人の利用は減りませんが、介護予防として利用されている人、比較的元気な人が、デイサービスを利用しなくなっている。介護予防は重要なのですが、予防医療と同じように、切迫感や緊急性がないからだと思います。啓蒙(けいもう)ができていなかったという面はあります。一方で、そういう人たちには介護サービスの必要性が伝わっていなかったのかという根本的な点での反省もあります。

病院を退職した看護師は介護施設に流れてこなかった

――介護施設では、コロナのクラスターが発生するリスクもあって、仕事を辞める人もいるそうです。アゼリーグループでは職員の確保について、この1年どうでしたか?

 介護施設はもともと全国どこでも看護師が不足していました。1年ほど前、コロナ患者対応による負担増もあり、病院勤務の看護師が辞めているという報道がありました。私たち介護施設の経営者は、そういう人たちが転職してきてくれるかと期待していました。しかし、全国の知人たちと話していると、ほとんど流れてきていないということでした。

 私たちの施設は長く勤務している看護師が多いので、逆に「利用者を守るんだ」と一致団結してくれています。介護職員や事務職員に感染対策の指導もしてくれていますが、職員のプレッシャーは大きいと思います。

 職員がスマホにダウンロードしている新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA(ココア)」のアラートが鳴って、予防的に一定期間休むケースがでてきています。同居家族が濃厚接触者になり、仕事を休まなくてはいけなくなったというケースもあります。職員は、自分が施設にウイルスを持ち込まないだけでなく、家庭でも気をつける生活を1年以上続けているので、大変なストレスだと思います。

キーパーソンに聞く・来栖さんインタビュー職員による施設内の定期的な消毒作業は今、ルーティンになっている(提供写真)

――介護職員や看護師が配置基準よりかなり多い人数を確保している施設と、ギリギリの人数で運営している施設があります。その差はコロナ対応でも大きく影響するのでしょうか?

 私たちの施設は、配置基準より多めの職員を確保して運営しています。クラスターが発生した施設には、ギリギリの人数で運営しているところもあると聞きます。ただ、私たちの施設含めて、人員確保の面で悪循環に陥るリスクは、どの施設にも常にあります。

――介護の現場では常に職員確保が課題とされてきました。コロナ禍で景気が後退し、介護への入職者が増えてくることはないでしょうか?

 不景気になると、介護への人材の流入が増えるのではないかといわれてきました。今回も期待する介護施設の経営者がいます。確かにリーマンショックの後、別な仕事から転職してくる人は増えました。しかし、そういう人はすぐいなくなってしまうという印象を持っている経営者は少なくないと思います。

 私は、本当に介護職としての適性があるのかを見極めないといけないと考えています。適性がない日本人の転職に期待するよりも、日本語ができる適性のある外国人を雇用した方がいいと思います。

介護施設で患者の対応をするなら看護師確保が必要

――介護施設を運営者として、日本のコロナ対策のボトルネックや課題は何だと思いますか。

 介護施設にいる職員の多くは医療従事者ではありません。施設内でクラスターが発生し、感染した入所者が病院に入院ができないと、点滴と酸素マスクを付けるぐらいの処置しかできません。感染拡大期や感染まん延期には、介護施設でもある程度の医療的ケアが必要です。そこを充実させる施策が必要だと思います。

 コロナ禍が終息した時、「老人ホームにはハイリスクの人たちが入所しているので、医療のできる態勢が必要」ということになればいいのですが……。現在のように、ハイリスクの人たちを多く抱えているのに、医療はできないという状況では、厚生労働省に「老人ホームでの看取り」の役割も期待されておりますが、コロナ禍では医療体制のさらなる支援をお願いしたいと思っております。

キーパーソンに聞く・来栖さんインタビュー適切な手指消毒の案内をする職員(提供写真)

――日本では1年経ってもコロナ病床の確保に窮しています。医師でもある来栖さんは、この課題解決のために何が必要だと思いますか?

 介護施設で感染者がでると、すぐ入院させないとクラスターになってしまうので、経営者も職員も「有事」への不安を抱えています。実際、感染者がでた知り合いの介護施設では、職員がコロナ対応に混乱してしまったそうです。介護施設側からすると、早期発見、早期入院が不可欠です。一般病院でも、コロナの感染者を受け入れて、そこからクラスターになってしまったらという懸念があります。

 コロナ専用病院の拡充や、感染者が療養するホテルでの医療の充実といった思い切った施策をとってほしいと思います。一番良くないのは混在。非効率だからです。効率的な集中管理が必要です。

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