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政府もメディアも実は見通していた「人口減少社会」

成長幻想から脱皮し世界最先端の「超高齢社会」を目指せ

原真人 朝日新聞 編集委員

わかっていた「2000年代に人口減」

 コロナショックは一時的に出生や結婚の増減に影響を与えるかもしれない。確かなことは人口減少の大きな流れに変化をもたらすほどのことはない、ということだ。

 「人口減少社会の到来」はかなり以前から予測されていたと聞く。なぜ政府はもっと早く抜本的な対策に乗り出さなかったのか。たとえばフランスなど欧州のいくつかの国で採用されているように、若い子育て世代への手厚い社会保障政策を採用すれば良かったのではないか。

 ――政府や専門家たちは、いつ日本の人口減少問題を認識したのでしょうか?

 「いまのような人口減少社会が日本に到来することは1940年にはかなり正確に予測されていました」

 1940年といえば、太平洋戦争(1941~45年)前夜である。予測をまとめたのは社人研の前身である人口問題研究所だった。その報告書はいまも保存されている。人口動態を性別、年齢別に細かく分析し、2025年までの人口予測を5年刻みで示している。

 それによると、1935年実績で6925万人だった日本の人口は、その後一貫して増え続け、65年後の2000年に1億2274万人でピークを打ったあと、5年後の2005年に減少に転じる。予測最終年の2025年の人口は1億1177万人と見込んでいた。

国立社会保障・人口問題研究所、総務省のデータをもとに筆者作成拡大国立社会保障・人口問題研究所、総務省のデータをもとに筆者作成

 人口問題研による今から80年前の人口シミュレーションと、実際の人口推移とを比べた上記グラフを参照いただきたい。誤差はあるものの、驚くほど実際の人口動態の変化に近いグラフ曲線を描いていたことがわかる。

 もちろん予測時点で、1941~45年の太平洋戦争による人口減少は織り込まれていなかったし、戦後の団塊の世代を生んだベビーブームも想定されていない。ただ、戦争とベビーブームをならしてみれば、本来たどるべき人口トレンド線に戻ったように見ることもできる。まさに実際の人口も1940年予測と同じような軌跡を描いていった。

 日本の人口は結局、2008年の1億2808万人をピークに09年から減少に転じた。戦前の「2005年に減少に転じる」という予測はかなり精度が高かったと言える。

半世紀前の「望ましい未来」

 政府系の研究機関が人口減少の未来をかなり正確に予測できていたのなら、なぜ政府は対策に手をこまぬいていたのか。

 ――なぜ政府は長らく人口減対策でもっと手を打たなかったのでしょうか?

 「人口減少は、実は政府にとっても望んでいた未来だったからです」

 どういうことか――。実は戦後、人口が回復して増加ペースが上向いてくると、政府はむしろ「人口増を抑制したい」と考え始めたという。

 当時日本はまだ貧しかった。多くの生活物資を輸入に頼ってもいた。だから政策当事者たちは、食料やエネルギーの安全保障面からも、経済力が追いつかないほどの人口膨張は避けたかったのだ。

 その後、「第2次ベビーブーム」と言われた1971~74年ごろ、合計特殊出生率(女性が一生に生む子ども数)が「置き換え水準」(人口が増えも減りもしない水準)の2.1ていどまで低下しても政府の姿勢は変わらなかった。置き換え水準のまま出生率を維持できれば、人口はそれほど増えもせず、減りもしないで一定水準に落ち着く、と政策当事者たちは信じたのだ。だが実際は、出生率はその後も低下しつづけ、2005年には史上最低レベルの1.26まで下がった。

 しかし70年代から80年代にかけて出生率が下がっても、政府に危機感は高まらなかったし、マスメディアや多くの国民にも問題意識は乏しかった。人口減少問題がこれだけ社会的大テーマとなっている今となっては不思議なのだが、当時はむしろ食料やエネルギーなどの資源制約、公害問題などの環境制約など、人口膨張の影の部分にスポットがあたることが多く、これ以上の人口急増は望ましくない、という声のほうが強かった。

 日本だけではない。それは世界的な傾向だった。1972年に発表されたローマクラブの報告書『成長の限界』がその問題意識を的確にまとめている。ローマクラブは科学者や経済学者、プランナー、教育者、経営者ら、世界25カ国から集めた約70人の賢人たちで構成される民間組織だ。この報告書が人口爆発や資源枯渇、環境汚染などで人類は重大危機を迎えている、と警告したのである。

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筆者

原真人

原真人(はら・まこと) 朝日新聞 編集委員

1988年に朝日新聞社に入社。経済部デスク、論説委員、書評委員、朝刊の当番編集長などを経て、現在は経済分野を担当する編集委員。コラム「多事奏論」を執筆中。著書に『日本銀行「失敗の本質」』(小学館新書)、『日本「一発屋」論 バブル・成長信仰・アベノミクス』(朝日新書)、『経済ニュースの裏読み深読み』(朝日新聞出版)。共著に『失われた〈20年〉』(岩波書店)、「不安大国ニッポン」(朝日新聞出版)など。

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