震災経験が自治体・医師会・医大の融和をもたらした 新型コロナの「福島モデル」
星総合病院理事長で福島県医師会副会長の星北斗さんに聞く
岩崎賢一 朝日新聞社 メディアデザインセンター エディター兼プランナー
医師不足県の一つとされてきた福島県が、新型コロナ対策では病床確保やワクチン接種で全国的な注目を集めています。福島県医師会副会長で星総合病院の星北斗理事長に、「福島モデル」がなぜ好循環を生んでいるのか、日本がワクチン開発でなぜ出遅れたのか、日本の医療行政が抱える課題について聞きました。
シリーズ「新型コロナ・キーパーソンに聞く」はここから
被災・広域避難の経験が医師会と自治体と医大を歩み寄らせた
星北斗さんは、医療関係者などで構成する「福島県新型コロナウイルス感染症医療調整本部」の構成員です。旧厚生省の元医系技官でもあり、日本の医療政策についても熟知しています。

救急搬送された新型コロナの感染者を受け入れる星総合病院の医療スタッフ(提供写真)
――地方でも新規感染者数が増えてきています。東京、大阪といった大都市圏では病床確保が大きな問題ですが、福島県ではどうですか?
先日、仙台の放送局からインタビューを受けました。なぜ、人口や医療機関が宮城県の方が多いのに、福島県の方が病床を確保できているのか、という疑問からです。
福島県の即応病床(すぐコロナ患者を診られる病床)は、496床確保されています。仙台や東京などの大都市圏では、公立病院や公的病院が受け入れの中心になっているという報道がありますが、福島県の場合、病床数でも病院数でも民間病院の方が多いのです。私が経営する星総合病院は430床あります。新型コロナの感染者に対応する病床として27床を設けています。ただし、そのためには75床ほど稼働を止めています。
福島県は東日本大震災と福島第一原子力発電所事故を経験しました。自分のエゴを言っていたらはじまらない、誰かがへそを曲げていたらうまくいかないことが分かっています。広域避難の経験もあり、県医師会と県、福島県立医科大学の3者の距離が縮まっていました。医療資源が少ない中で、誰かに責任に押し付けていたら住民はどうなるのかという視点に立ち、3者が少しずつ歩み寄ってきました。震災時の医療関係者の連携の経験が大きく影響していると思います。
仙台や東京といった都会では、どこかの病院がやってくれるのではないかという発想になってしまうのだと思います。そういう人がいるとオペレーションはうまくいきません。地域ごとの医療従事者のメンタリティーの違いも影響していると思います。