「最善は変わり続ける」ことを前提にして対策を考えることが重要
データサイエンスの宮田裕章・慶応義塾大学医学部教授に聞く
岩崎賢一 朝日新聞社 メディアデザインセンター エディター兼プランナー
未来に備えながら今の対策をなるべく早く打つ
――全国調査5回のうち、4回目以外について教えて下さい。また、現在は他のビッグデータの分析もされているのでしょうか?
1~3回目を昨年4月の緊急事態宣言下に実施しました。5回目が昨年夏の「第2波」といわれたときの実態把握でした。それ以降は、Google(グーグル)やyahoo(ヤフー)などと連携しながら、多角的なデータを取得して分析しています。
グーグル・コロナ予測(https://cloud.google.com/blog/ja/products/ai-machine-learning/google-and-harvard-improve-covid-19-forecasts)を昨年11月中旬に始めました。現場では、感染拡大防止対策をしてから2週間が経たないと感染者数の変動といった結果が出てこないという課題がありました。2週間後の結果をみてから対策の効果について評価しても、どんどん後手に回ってしまいます。
実際には、対策を打った瞬間から、人流などに効果があらわれてきます。それをつかめば、1週間後、2週間後の予測ができます。そうした予測を参考に、できるだけ効果的にブレーキを踏むなどの対策を行い、人々の注意喚起をサポートすることが、グーグル・コロナ予測の一つの目的です。
未来に備えながら、今できる対策をなるべく早く打っていくことが、データによる予測の効果です。
今、検討していることは、ワクチンの接種がどれくらいの効果を上げていくのかといった観点からの収束予測です。これについては色々な分析があります。世界中のデータと付き合わせていくと、人口だけでなく、人口密度やエリアによって変わってくることがわかります。だいたい1回目の接種をした人たちが、人口の40%から50数%に達すると、対策をそれなりに緩めても感染のスピードが落ちていくことがわかってきています。対策をいつ緩和できるかが予測できれば、未来の見通しを立てることができます。

福岡赤十字病院にはこの日も患者が救急搬送された=2021年5月26日、福岡市南区
――このような大学の研究室で行っている現在の調査・研究は、論文だけでなく、政策現場にもいかされているのですか?
論文にすることは、第三者の評価を得るという意味で、とても大切なことです。行政機関に近い一部の人たちの中には、「個人の業績にするのか」といった批判をする人がいますが、それは間違いです。
独りよがりの間違った分析をしないためには、透明性のある第三者のチェックを受けることが必要です。また、プロセスを公表しなくてはいけないので、判断が間違っていたときには、それを公表したうえで先に進むことができます。プロセスがブラックボックスだと一歩も進めません。何が悪いのかわからないからです。
グーグルと行っているプロジェクトのポリシーは、できるだけ多くの情報を共有していくということなので、オープンデータとして人流データを公表したうえで、予測結果も一部の人たちだけではなく、世間にも広く公表しています。もちろん、予測はすべてが正しいというわけではなく、データの限界や、不確定事項の存在で、予測が歪むこともあります。その批判も含めて対応し、改善していくことが重要です。