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イスラエルのワクチン接種状況から見る菅政権の命運

接種率40%で感染者数が激減した!

吉松崇 経済金融アナリスト

それでもオリンピックは開催される!

 菅政権の政権支持率が低迷している。例えば、NHKが毎月行っている世論調査では、5月の支持率が35%と発足以来最低を記録している。
http://www.nhk.or.jp/senkyo/shijiritsu/

 政権支持率は調査機関毎に独特のクセがあり、支持率には31~43%くらいの幅がある。だから支持率の「絶対値」はあまり当てには出来ないが、時系列で見たトレンドはどの調査機関でもほとんど同じである。

 それは、新型コロナの感染が急拡大した昨年12月に急低下して、以降一貫して低水準にあることだ。また、昨年12月には不支持率が急拡大して、今年に入ってからは、月毎に多少の変動があるものの、概ね不支持率が支持率を上回っている。

 なお、この世論調査のトレンドは、国民の60~70%が政権のコロナ対策を支持していないことと整合的である。いわゆる「コロナ対策」は自治体によって政策に差があり、感染の深刻度にも地域によって差があり、必ずしも全てが中央政府の責任とは言えないが、国民はそんなところは見ない。上手くいかないものは全て政権の責任だということになるのは、危機管理の問題である以上、已むを得まい。

OrpheusFX/shutterstock.com拡大OrpheusFX/shutterstock.com

 一方、国民の半数以上がオリンピックの予定通りの開催に反対しており、中止または延期を求めている。だが、菅政権のこれまでの動きを見ると、何があろうとオリンピックは開催されるのではないだろうか? 本稿執筆時点(6月1日)では、むしろ「どうやって観客を入れて開催するか」が政権内では議論されているようだ。

 国民がオリンピックの開催に不安を覚える理由は、これによる感染拡大と医療の逼迫である。東京都と関西圏に緊急事態措置が出されており、とりわけ関西圏(大阪・兵庫)では、医療の逼迫で重症者でも入院できずに亡くなられるような悲惨な事例が報道されている。このような足下の状況から、「オリンピックは無謀だ」と考える人が増えるのも当然だ。著名な経済人の中にも、政府に再考を求める人が出てきている。

ワクチン接種のスピードに賭ける菅政権

 しかし、菅政権は、オリンピックの中止や延期を求める世論に耳を貸すつもりはなさそうだ。

 その代わりに力を入れているのが、ワクチン接種のスピードである。菅首相は6月の半ばまでに1日に100万回の接種が可能となるような体制を整えると述べている。

 あまり報道されないが、政府の発表では、ファイザーのワクチン7,200万人分、モデルナのワクチン2,500万人分、アストラゼネカのワクチン6,000万人分の今年中の供給が既に確保されているという。これは大変な量である。ファイザーとモデルナを合わせると9,700万人分であり、これだけで日本の人口の77%に当たる。今やアストラゼネカのワクチンを他国に回すことが検討されている。これだけの量のワクチンを確保したことは、政権の業績として素直に評価されて良いのではないだろうか。

 ファイザーとモデルナのワクチンはmRNAワクチンと呼ばれ、これまでにない全く新しい技術を使ったワクチンである。その発症予防効果もそれぞれ95%、94%と極めて高い。現在、世界で使われている新型コロナのワクチンのなかでは、最も優れた発症予防効果を持つワクチンである。


筆者

吉松崇

吉松崇(よしまつ・たかし) 経済金融アナリスト

1951年生まれ。1974年東京大学教養学部卒業。1979年シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)、リーマン・ブラザース等にて30年以上にわたり企業金融と資本市場業務に従事。10年間の在米勤務(ニューヨーク)を経験。2011年より、経済・金融の分野で執筆活動を行う。著書:『労働者の味方をやめた世界の左派政党』 (PHP新書、2019年)、『大格差社会アメリカの資本主義』(日経プレミアシリーズ、2015年)。共著:『アベノミクスは進化する』(中央経済社、2017年)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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