五輪、ワクチン、自粛で怒りの炎が燃えさかる 「正義感が攻撃性を正当化してしまう危険性」
コロナ禍の怒りについてアンガーマネジメントの専門家に聞く
岩崎賢一 朝日新聞社 メディアデザインセンター エディター兼プランナー
オリンピック、ワクチン、自粛……。コロナ禍が長引く中、次々と人々の怒りが集中するキーワードが浮上しています。21世紀は、ICT(情報通信技術)の発達、特にスマートフォンやSNSの登場で、誰もがインターネットを通じて情報を発信できる時代になりました。そのような環境下で暮らす私たちは、コロナ禍の中でどのような点に注意をしていくべきなのでしょうか。アンガーマネジメントの専門家の田辺有理子・横浜市立大学医学部看護学科講師に聞きました。
シリーズ「新型コロナ・キーパーソンに聞く」はここから
新型コロナの生け贄探しはもうやめよう~誰にも不要不急の行動はない!

東京五輪に出場予定のソフトボール女子豪州選手団=2021年6月1日午前10時30分、千葉県成田市
マイナス感情を燃料として次々と怒りの炎が燃えさかる
――今年4月、「なぜ日本はワクチンが確保できないのか?」という点がメディアで注目され、政府への不満がSNSを含め多く情報発信されました。5月になると、今度はワクチンの輸入はできたものの予約や打ち手など接種の準備が整っていないことに、不満の矛先は向かいました。そして次は東京オリンピックへと、状況の変化に応じて、次々に怒りの矛先が向けられているように感じます。1年前は「自粛警察」が注目されていましたが、1年経過した現在は行政機関や政治に矛先が向かいがちです。このような社会状況を、どうみていますか?
感染症拡大から1年半、感染への不安だけでなく、長引く自粛生活、経済的な困窮など、厳しい状況のなかでいまだ耐える生活が続いています。質問にあるような社会状況をアンガーマネジメントの視点で整理をしてみたいと思います。
怒りが生まれる仕組みを、ライターにたとえて説明できます。つまり、回転式のヤスリを回すと、火花が散り、オイルやガスに着火する、というわけです。
社会生活の中では、価値観の違いや期待値と違う現実に遭遇することがあります。ワクチンの予約、感染対策、行政機関の対策などで、自分の期待値と違う現実に遭遇することがスイッチになります。ワクチンの予約で電話がつながらない、予約枠が少なくて埋まっていたという現実に対して、想定される人数に対応できる体制で開始すべきだという期待が裏切られ、それによって怒りの火花が散ります。

横浜市泉区の女性は午前9時の予約開始の直後にスマートフォンで予約を試みたが、「予約は終了しました」との画面が表示されたという=2021年5月10日午後3時26分、横浜市泉区
オイルやガスにあたる「燃料」は、人々の中にあるマイナス感情やマイナスな状態、不安が強い、疲れているといった感情や状態です。コロナ禍ではみんな疲弊していますし、ずっと不安を抱えていて、一人ひとりが燃料をため込んでいる状態といえます。そうした感情や状態が、怒りの火花によって発散されると、怒りの炎が燃えさかるわけです。
同じ状況でも火花を散らす人もいれば、散らさない人もいます。また、火花が散っても、燃料がなければ火は燃えません。期待と違うことがあっても、マイナスな感情やマイナスな状態が少なければ怒るほどでもないと思えるのに、燃料がたまっていると普段以上に強く怒ってしまうことがあります。