質問や意見は「反抗的」?
その裁判からは、「反抗的」「指示に従わない」の背景にある運営方針をめぐる食い違いが見えて来る。
会社側が指導員に出した「注意書」では、「2019年9月、保護者説明会においても、長く支援員をやっているのでこれまでやってきたことを変えないと反論し、会社に対して反抗的であった」とされている。
一方、指導員らによると、委託前には子どもたちに楽しく過ごしてもらおうと、手作り昼食(調理実習)や体を使う遊び方を行っていたが、委託後は、食中毒や事故が起きたら困るとしてストップをかけられることが増えたという。9月の保護者説明会でも、手作り昼食を求める保護者側に対し、会社側は「開催は4回まで」と突然上限を持ち出して渋った。そうした中で、同席した指導員が「なぜ5回目の手作り昼食をしてはいけないのか」と質問しただけだったと言う。
指導員たちは、子どもの育ちについて会社側に意見を言うのは専門職としての義務、と考えてきた。市の直営時代から、団交を通じて職場の改善を求め、委託後も、子どもたちの玩具の整備やコロナによる職員への休業補償、雇い止め後はその撤回を訴えるため団交を求めた。「会社側は、スキルや熟練にもとづいて提言する専門職でなく、服従する安価な従業員を求めていたのか」と指導員は振り返る。
会社側は、取材に対し、「係争中でもあり詳細はお答えできないが、雇用契約内容や勤務状態で判断している」と答えている。
「労務管理から解放」というサービス
住民からも、雇い止め通告があった昨年3月、継続雇用の約束が1年で破られたとして市に抗議文が提出されている。これに対し市は、「人事には関与しない」と回答するにとどまった。
そんな姿勢の理由を推察させるくだりが、内閣府のサイト「窓口業務の民間委託に係る先進・優良事例集」(2017年10月2日付)にある。
ここに紹介されている同社の事例には、「委託効果」の一つとして挙げられた「事務の効率化」のひとつに「非正規職員の労務管理から解放」が含まれている。労務管理からの解放がサービスの一環なら、「人事には関与しない」と市が考えるのもうなずける。
だが、市はこの事業に5年契約で毎年3億5000万円の委託費を出し、指導員の人件費や待遇確保はこの委託費に支えられている。市民から預かった税を支出している限り、市民サービスの基礎となる指導員の労働条件や、労働権の保護に、市の監視は不可欠だったはずだ。
沖縄まで広がった波紋
こうした中、昨年4月の大阪府労委に続き、今年4月、中労委も団交拒否について「不当労働行為」と認め、会社側に、団交に応じるよう命じる。その波紋は守口市の外にも広がっていった。まず大阪府が5月13日から1カ月の入札参加資格停止を決め、18日には京都市が、21日には遅ればせながら守口市も3カ月の参加停止に踏み切った。
いずれも、入札が集中する時期を外れているため、直接的な影響は少ない。だが、是正効果は大きかった。
まず、同社が団交拒否を続けていた沖縄県南城市の特別教育支援の現場で同月24日、団交が始まった。守口市の学童保育労組にも会社側から、団交を受けるとの回答が来た。
さらに、京都市で同社が計画している仁和寺前のホテル建設について6月3日、12人の弁護士が連名で、市に再検討を申し入れた。同市の「上質宿泊施設誘致制度」に基づく建設計画だったが、その要綱に「雇用の創出・安定化に寄与する事業」という要件があり、中労委による不当労働行為の認定や、13人の雇い止めはこの要件に合わないとの主張だった。

仁和寺前に計画されているホテルのイメージ図=京都市提供
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