東芝・永山取締役会議長の再任に株主が「ノー」を突き付けた本質的理由
調査報告書への鈍い対応、個人株主軽視が招いたあり得ない事態
酒井吉廣 中部大学経営情報学部教授
6月25日に開かれた東芝の182回定時株主総会は、約3時間の長丁場の末、社外取締役の永山治取締役会議長と小林伸行監査委員会委員の再任が否決されて終わった。本稿執筆段階では、議案となった11名全員の取締役候補の賛成・反対の数(何%か)は不明ながら、総会の雰囲気からは、全体として多くの出席株主が会社にネガティブな印象を持っていたことは確実だろう。
また、再任候補のワイスマン・廣田綾子氏(以下、ワイスマン氏)と、新任候補の綿引真理子氏(同、綿引氏)の2名が会場に姿を現さなかったほか、新任候補で可決されたジョージ・オルコット氏(同、オルコット氏)が総会の直後に辞任した。司会の綱川智社長兼最高経営責任者(CEO)によれば、ワイスマン氏は海外にいてオンラインで参加、綿引氏は欠席とのことだが、筆者の知る限り、一国を代表する企業としては異例の株主総会だったとは言えるだろう。
今回、筆者は十年以上の付き合いのある外国投資家(東芝の投資家ではない)からの依頼を受け、今年に入ってからの東芝の一連の動きを観察してきた。筆者自身は、日本と海外の企業で取締役経験を持ち、取締役会の準備や取締役会をウォッチする仕事をしたこともある。犯罪学者としてフォレンジック調査を行った経験もあるので、その観点から東芝の問題を分析していきたい。

東芝の定時株主総会の会場への案内板=2021年6月25日東京都新宿区
世界中が注目した永山会議長の再任否決
この2週間、東芝は異常な事態に直面している。13人いた取締役が8人に減ってしまうというのは、世界的な有力企業としてはあり得ない事態と言える。
なかでも衝撃的だったのは、永山会議長の再任に株主が「ノー」を突き付けたことだ。日本の大手誌を含め、世界中が永山氏の再任否決に注目しており、その論調は手厳しい。「論座」を抱える朝日新聞も6月27日朝刊の天声人語、翌28日の社説で、社員や消費者、個人株主を重視する経営から乖離(かいり)したとして、東芝に猛省を促している。
最大の疑問は、永山会議長はなぜ報告書を読んだ時点で退任表明しなかったのかという点だ。
今回の定時株主総会を受けて、東芝による説明不足や戦略未提示などを理由とする専門家等の意見が出ているが、それは永山会議長不信任に繋がる本質ではない。経済産業省(以下、METI)の過度な株主総会への関与など日本に改善すべき問題があるのも事実だろうが、株主が永山会議長、すなわち東芝の現経営体制に「ノー」を突き付けたのは、6月10日に公表された調査人による調査報告書を受けた結果が、そこに名前の挙がった役員2人の退任で済ませようとしたためだ(さらに2人の執行役員も退任)。
調査報告書を信じたのであれば、経営陣全体の刷新が必要なはずだが、これを先送りした。つまり、報告書発表後の対応の遅れと、これを取締役会全員の問題と受け止めなかったことこそが、事の本質なのである。