勇気を出して「引き返そう」と言えるのが本当のリーダーだ
2021年07月27日
新型コロナウイルス感染症の拡大が止まらない。このままでは医療崩壊に突き進むとの危機感から、東京オリンピック開会式の翌日である7月24日には京都大学の西浦博教授が五輪「中断」をツイッターで訴えた。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会メンバーで内閣官房参与も務める岡部信彦・川崎市健康安全研究所長は、入院すべき人が入院できなくなるようなら中止を求める、との考えを25日に改めて示している。
これら専門家の声に政治やメディアがどこまで耳を傾け、勇気ある決断を下すことができるのか。あるいは経済の足を引っ張り続けるコロナ禍を抑え込むために経済界も思い切った政策を望むのか。いま問われているのはそのことではないか。
理論疫学が専門で、数理モデルを駆使して感染予測や分析をしている西浦教授。昨年の緊急事態宣言で「接触の8割削減」政策を提唱し「8割おじさん」と呼ばれる学者の危機感あふれるツイートは7月24日朝、以下のようになされた。
都内受入病院の状況聴取で悲鳴。入院調整中の患者が増加して収容能力を超え始めている。今後、呼吸苦があっても自宅療養で待つ者が増加し、自宅で重症化する人が出る。ここから待つと状況悪化を懸念するため、この時点でオリンピックを中断し、都内で外出自粛を徹底することを提案します。
この発言には伏線があった。西浦教授は「週刊文春」4月22日号の「五輪は1年延期を 西浦教授怒りの直言」という見出しのインタビュー記事で「国民がワクチンでプロテクトされた状態で(五輪を)行うのと、大きなリスクを負いながら行うのと、どちらがいいか」と問題を投げかけていた。
6月には、新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長ら専門家有志26人が18日に日本記者クラブで東京五輪について会見し、「無観客開催が望ましい」などとする提言を発表したが、それについて同月28日付のBuzzFeed JAPANのインタビュー記事で「リスクを評価する立場で、『中止は最もリスクが低いです』と明確に言うべきだった」「開催しないのが一番リスクは低い」と語っていた。
開催するか否かを決めるのは政治だとしても、無観客開催ではなく中止が最もリスクが低い選択肢であることをリスク評価の一環として専門家の立場で述べるべきだった、との見解を明らかにしていたのである。
その上で、緊急事態宣言以上の事態になったら、との質問に答えて「皆さんの安全が守れなくなりますので、その場合は躊躇なく中断することが必要です」と述べていた。西浦教授も提言を発表した有志の一員で、日本記者クラブでの会見にもリモート出席していたが、中止や五輪リスクそのものに関する発言の機会はなかった。
西浦教授は、7月21日に開かれた厚生労働省の専門家会合(アドバイザリーボード)で今後の感染に関するシミュレーションを資料として提出した。その中で、前週の同じ曜日と比べた新規感染者数の増え方が現状の1.5倍よりも減って1.3倍で推移すると仮定すれば8月7日には都内の感染者が1日3000人超となり、21日には1日5235人になるとの推計を示した。
7月22日のNHKニュース7では、このシミュレーションを報道するとともに、西浦教授が登場し「いま、流行の拡大を止められるかどうか大変重要な瀬戸際にある」と語った。(7月22日NHKニュース参照)
西浦教授らのシミュレーションによると、感染者一人が何人に感染を広げるかを示す実行再生産数は、東京都で現状の1.2から10%減少した場合にも新規感染者数は減少せず、入院患者数は8月中旬には3000人を超え、8月末には4083人に上る
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