農家にとってはプラス、JAの反対に理はあるか
2021年08月05日
江戸時代の経済は米本位制と言ってもよいものでした。米は農業の中心というより、経済の中心でした。今では、先物取引は、商品から金融・為替まで広い範囲で行われていますが、世界で初めての先物市場は、江戸時代の1730年に開設された、大坂堂島の米市場でした。先物取引は、日本人の発明です。
先物取引は、生産者にとって、将来の価格変動へのリスク回避を行い、経営を安定させるための手段です。これをリスクヘッジと言います。具体的に言うと、作付け前に、1俵1万5千円で売る先物契約をすれば、豊作や消費の減少で出来秋の価格が1万円となっても、1万5千円の収入を得ることができます。先物契約をした時の価格が保証されるのです。これは保険のようなものです。
戦前、米の需給がひっ迫すると、政府が市場に介入するようになり、自由な市場経済は否定されました。2百年以上続いた堂島米市場は1939年に閉鎖され、1942年には政府が市場を全面的・直接的に統制する “食糧管理法”が制定されました。
制度的に米の価格や流通を統制していた食糧管理法が1995年廃止され、米の先物市場を認める可能性が出てきました。2005年に東西の商品取引所が米の先物市場を農水省に申請しましたが、JA(農協)の意向を受けた自民党政権は認めませんでした。このときJAは、先物価格が高くなると、農家が米を作る意欲が出て、減反に協力しなくなるとして、反対しました。しかし、先物取引を行っているアメリカでは、1995年まで減反政策がとられていました。JAの主張には根拠がありませんでした。
民主党に政権が移った2011年、JAは反対の全国運動を展開しましたが、農水省は試験上場の申請を認可しました。72年ぶりの先物市場の復活でした。しかし、以来自民党政権下で4回も期限が到来しましたが、取引低迷を理由に、本上場への移行が見送られ続けています。試験上場自体も何度も延長するようなものではなく、前回の延長に当たっては、農水省はこれ以上の延長は認められないとしています。今回本上場できるかどうかが、最後のチャンスとなります。
今や先物取引は、農産物だけでなく金、原油、通貨、指数まで広範な商品について認められています。我々が国際的な穀物相場としているのは、シカゴ商品取引所(Chicago Board of Trade)の先物価格です。これは、世界の穀物生産者の指標となっています。価格が変動する一次産品では、先物取引が当たり前なのです。
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