下地に対米戦略、鄧小平路線の見直しへ
2021年08月25日
アリババ集団やテンセント、ディディ(滴滴出行)など中国の大手IT企業が習近平政権から厳しい統制と監視を受けている。中国企業の株価は下がり、中国への投資も減少している。政権の矛先は学習塾産業や不動産業にも向かっている。
なぜ習近平政権は自国企業に打撃を与えるのか。米国の証券アナリストは「中国は政策を間違えている」と述べたが、果たしてそうだろうか。そのカギは、いま国営メディアや街角にあふれる「共同富裕」のスローガンにある。
これは「みんなが豊かになる」を意味するが、言外に一部の人間だけ豊かになるのは許さないと読める。8月17日、習氏は共産党中央財経委員会で、「富裕層の不当な所得を抑制し、賃金を引き上げ、中間所得層を拡大する」と、政策の中身を具体的に述べた。
中国の巨大企業の経営者はケタ外れの資産家で、経済格差の象徴とされる。クレディ・スイス証券の報告書によると、中国で最も富裕な1%の人々は国全体の富の31%を保有し、その比率は20年前に比べて10ポイント高まったという。
ちなみに米国では上位1%の富裕層の所得が国民所得に占める割合は約20%で、中国はそれを上回る。習政権は、米国の分断による大混乱を見て、格差が国家の存続を脅かすことを深刻に認識したはずだ。
昨年10月、アリババ集団や金融大手アントを率いる馬雲(ジャック・マー)氏は「政府の金融規制は時代錯誤。イノベーションを窒息死させる」と批判した。すると習政権の捜査機関が突如姿を現し、アリババと馬氏に強烈な不意打ちを食らわしたのだ。
学習塾産業に対する統制は7月24日に公表された。子供1人にかかる学習塾の年間費用は1万2千元(約20万円)で、中国の平均月収を上回る。重い教育負担が少子化の原因になっている。
学習塾の産業規模は年間11兆円もある。政府の統制は「小中学生を対象に主要教科を営利目的で教えることを禁止する」というもの。利益を出すなという驚きの内容に、学習塾大手の株価は暴落、創業者らの資産は一気に縮小した。
不動産業については住宅価格の高騰がひどい。住宅購入も結婚も困難な都市部の若者たちは、将来への意欲を失って「寝そべり族」(オンラインゲームなど身近な娯楽に興ずる人々)になり、中国社会の未来を暗くしている。
富裕層をこらしめる「共同富裕」には、貧富の格差をなくし、労働者や農民など一般大衆の心をつかもうとする狙いがある。
これは共産党の原点への回帰に他ならず、鄧小平が1980年代に唱えた「先富論」(先に行ったものから豊かになる)を覆すものだ。
ふつう西側諸国であれば、所得の再配分は必要な税制改正などで既得権益層の反対にあい、例外なく難航する。しかし、中国では習氏の一声で動き出す。
このスピード感が専制国家の長所だが、為政者の独断で政策を行うやり方は、大衆迎合となって暴走する危険をはらむ。実際に国民はどう感じているのか。
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