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米の先物取引廃止が示した農協・族議員連合の力〜小選挙区制が生んだ自民議員の質低下

農家の利益ではなくJA農協の利益を優先する構造

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

不合理な先物取引廃止

 米先物取引の廃止が決定されました。この経済的な意味について、前回述べたところを、もう一度簡単に説明します(「米の先物取引はなぜ認められないのか〜本上場できるかどうか、最後のチャンス」)。

 先物取引が認められると、農家は豊作などで価格が低下するリスクを回避できます。2万円で先物契約すると1万円に下がっても2万円が保証されます。リスクを負担するのは、商品取引に参加する投機家です。これまで政府は米価が下がると、農家に価格補てんをしたり、市場から米を買い入れて米価を戻したりしてきました。これにはお金がかかります。先物取引が認められると、国民は納税者として無駄な金を支出しなくてすみます。また、米価が下がると、消費者としても利益を受けます。

農協の利益で政策が決まる

 生産者である農家にとっても、国民納税者や消費者にとっても、先物取引は利益となります。それが認められないのは、JA農協があるからです。

 政府は、農家に補助金を出して作付面積を減少させ、米の供給量を制限して米価を高く維持してきました。1970年から50年も続く減反です。医療などと違い、財政負担をして国民消費者が購入する主食の価格を上げるという異常な政策です。国民は納税者として消費者として二重に負担しています。JA農協はこの最大の受益者です。安倍前首相は40年間誰にもできなかった減反を廃止したとぶち上げましたが、これはフェイクニュースでした。これが本当なら、米価は下がります。農協は永田町と霞が関をムシロ旗で占拠していたはずです。

国内で唯一、米の先物取引を行う堂島商品取引所国内で唯一、米の先物取引を行う堂島商品取引所

 減反を実施しても豊作などで米の供給量が増加し米価が下がりそうになると、農協は、在庫を操作して米価を維持してきました。それでも効果がないと、政府に市場からの買い入れを要求して米価を戻させてきました。

  米価が下がれば、それにパーセントを乗じて決まる農協の販売手数料も減少します。今は圧倒的な集荷量を背景に、農協は卸売業者との一対一の相対取引で米価を決めています。それでも、先物を認め、その価格が下がると、農協は卸売業者から価格引下げを要求されます。農協が先物取引に反対するのは、米価を操作できなくなるからです。

 欧米にも農業の政治団体はあります。日本のJA農協がこれらと決定的に違うのは、JA農協自体が経済活動を行っていることです。JA農協が実現しようとしているのは、農家や農業の利益ではなく自己の経済利益です。だから、農家に利益となる米の先物取引に反対するのです。

農政を牛耳る政官業のトライアングル

 自民党農林族、農協、農水省の農政トライアングルが、食料・農業政策を決めてきました。農協は農民票を取りまとめて農林族議員を当選させ、農林族議員は政治力を使って農水省に高米価や農産物関税の維持、農業予算の獲得を行わせ、高米価のお陰で、農協は販売手数料を高めるとともに高コストな零細農家を温存して政治力を維持してきました。三者に利益がある癒着の関係でした。

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