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政策を担う若手官僚が「霞が関」から逃げていく~人事権で異論を封じた安倍・菅時代

傷ついた官僚制度をどう再建するか

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

 自民党総裁選挙が始まった。メディアの報道は首相退陣劇から候補者の出馬や勝敗予想に移り、自民党の思惑通り総裁選を盛り上げている。

 忘れてならないのは、安倍・菅政権の下で、この国の政策を担う官僚制度が崩壊といえるほどに傷ついたことである。退職を希望する若手官僚は増え、官僚を志す若者も減っている。だれが次期首相になるにせよ、この現実を直視して立直すことが急務である。

20代官僚の7人に1人が退職の意向

 昨年7月、内閣人事局は「20代の若手男性官僚の7人に1人が数年内に退職する意向」という調査結果を発表した。

 それによると退職意向の理由(複数回答)のトップは「もっと魅力的な仕事に就きたい」( 49.4 %)だった。若い官僚たちが、「霞が関」に魅力を感じなくなっている。

 今年4月の人事院の発表では、21年度の官僚志願者数は前年より14.5%も減った。減少は5年連続だ

 実際に辞めた官僚は19年度87人で、6年前の4倍に増えた。政策を担う希望を抱いて入省した若者が、なぜ20代で霞が関を去ろうとするのか。その問題点を順々に考察したい。

公文書の改ざん、虚偽答弁、政権にへつらった官僚たち

 この数年、国民が目にしたのは、国会で平然と虚偽答弁を繰り返す官僚たちの姿である。

 安倍政権下では、森友学園への国有地売却をめぐり、首相夫人の関与を記した公文書を佐川宣寿・財務省理財局長が指示して改ざんした。交渉記録が残っているにも関わらず、「処分したので存在しない」と何度も虚偽の答弁をした。

2018年3月、参院予算委の証人喚問に臨む佐川宣寿・元国税庁長官2018年3月、参院予算委の証人喚問に臨む佐川宣寿・元国税庁長官

 首相夫妻の失態を隠すことが官僚の責務と考えたのだ。その功績で佐川局長は国税庁長官に順当に昇進した(その後、懲戒処分を受け依願退官)。自らを卑しめる行為は恥ずかしく哀れでもある。

 菅政権下では、首相の長男が勤める衛星放送関連会社「東北新社」から、総務省の幹部官僚8人が倫理規定に違反する計19件の接待を受けていたことが明るみに出た。

 ふつう民放キー局の社長でも同省幹部と面談することは難しい。東北新社は異例の待遇を受けていた。

 費用は全て東北新社持ちだ。官僚たちは国会で「記憶にございません」と臆面もなく答弁し、事実の解明を拒んで首相を救った。

内閣人事局を設立し官僚人事を掌握。死語になった「公僕」

 官僚の劣化が丸見えになり、国民のために働くことを意味する「公僕」は死語になった。

 官僚が政権にへつらうようになった一因は、安倍時代の2014年、官僚人事を一手に掌握する内閣人事局を設置したことにある。人事権を一極集中することで省庁の反対意見を抑え、意思決定のスピードアップを図ろうとした。

 目的は良いのだが、実権を握ったのが菅官房長官で、以来、官邸の政策に異論を唱えて飛ばされたり、各省庁が決めた人事が拒否されたりするケースが相次いだ。官僚を人事で脅す政治の始まりだった。

賭けマージャン問題が発覚した黒川弘務・元東京高検検事長(2020年5月)賭けマージャン問題が発覚した黒川弘務・元東京高検検事長(2020年5月)

 ある元官僚は、「モノ言えば唇寒し。以前なら政策の是非をめぐって省内で深夜まで議論したものだが、今や政策は官邸からトップダウンで降りて来る。おかしな政策であっても、

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