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コロナとコメと選挙〜立憲民主党がたどる日本社会党の道

野党第一党の驚くべきアナクロニズム

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

新型コロナがコメに及ぼす影響とは

 アメリカ人がよく使う表現に、"Every cloud has a silver lining." があります。直訳すると、“どの雲にも銀の裏地がついている”ですが、悪い出来事にも明るい部分があるという意味です。日本語で言うと、“不幸中の幸い”とか“悪いことばかりではない”という表現に当たります。

 新型コロナは、経済に大きな影響を与えました。ただし、どの産業にも一律に影響を与えたのではありません。一部の自動車メーカーは大きな利益をあげています。その一方で、対面でのサービス提供が必要な、大衆食堂、レストラン、居酒屋などの外食業界は、大きな被害を受けました。

 同じサービス産業でも、大学などは、パソコンを利用したオンラインでのサービス提供という方法がありました。しかし、パソコンの画面を通じて料理を提供することはできません。持ち帰り、宅配、出前(ウーバーイーツなど)でも、売り上げを確保することは困難です。

 外食店が影響を受けると、そこに食材を提供する農業も影響を受けます。新型コロナの影響が出始めたとき、ぜいたく品である和牛肉の商品券や和牛肉の学校給食への提供という案が農林族議員から出され、物議を醸しました。

 牛肉の価格は高い水準で推移していて、新型コロナの影響をほとんど受けていません。他方で、主食であるコメについては、大きな影響が見られるようになりました。それは米価の低下です。

 コメは家庭で食べるというイメージが強いと思いますが、主食用のコメのうち、7割が家庭内消費で、3割が弁当や外食店などで消費されています。巣籠もり消費でコメの家庭内消費は若干増えましたが、外食産業でのコメ消費の落ち込みをカバーすることはできませんでした。

 消費が減少したので民間在庫は増加し、6月末は適正在庫と言われる180~200を超え、219万トンに達しました。JA農協は農家に支払う今年産のコメ代金を前年の2~3割減らしました。

コロナが減反を破壊する?

 コメ政策の基本は高米価政策です。政府が農家からコメを買い入れていた食糧管理制度の時代、自民党政府は政府買入れ価格(生産者米価)を引きあげることで、農家の所得を補償しようとしました。

 ところが米価を上げ過ぎたので、生産が増え消費が減少し、深刻な過剰を招きました。政府は過剰米の在庫を家畜のエサや海外援助へタダ同然で処分しました。これに3兆円もの血税が使われました。これとともに、農家に補助金を出して生産を減少させ、政府が買い入れる量を減らそうとしました。これが減反の起こりです。

 1995年に食糧管理制度が廃止され、一般的なコメの買い入れがなくなり、政府の買い入れは備蓄米に限定されました。食糧管理制度時代の直接的な米価支持はなくなりました。それに代わり、今では、減反で生産を減少させ米価を高く維持しています。減反がなくなれば、米価は下がります。これは今でも続いています。減反廃止は安倍政権のフェイクニュースです。毎年農家に払う減反の補助金に、政府は3,500憶円もの血税を使っています。

米の収穫拡大米の収穫

 ところが、今年の減反の消化は大変でした。コメの需要は毎年10万トンずつ減少しています。これに加えて、昨年は生産数量が目標数量を20万トン以上上回ったことから、今年は30万トン以上の減産が必要だとされました。農林水産省が示した適正生産量は693万トンで、ピーク時の1967年の1,426万トンから半分以下に減少することになりました。

 昨年でも水田面積238万ヘクタールのうち主食用のコメを作付けしたのは137万ヘクタールにすぎず、水田の43%が減反されています。農家はもう昨年以上の減反はできないという反応でした。減反目標の達成(農水省が示した適正生産量までのコメ生産の減少)は危ぶまれました。しかし、これにJA農協は大変な危機感を持ちました。米価が下がると農協の販売手数料は減少します。また、コストの高い兼業農家や年金生活者が農業だけでなく農協組合員であることも止めると、兼業や年金の収入が農協口座に預金されなくなってしまいます(JAバンクの預金残高は2020年3月末で104兆円、うち農家等の個人は92兆円)。JA農協グループは必死になって農家等に働きかけを行い、ようやく減反目標を達成することができました。米価を維持するなら、なりふり構わず、主食であるコメの生産量を減少するという姿勢です。

 コロナによる需要の減少で、米価を維持しようとすると、来年は減反をさらに強化しなければなりません。しかし、もう減反は限界にきています。

 通常の政策なら、政府が財政負担を行うことで、国民は安く財やサービスの提供を受けられます。これに対し、減反という政策は、国が補助金を出して生産を減少させ、価格を上げて消費者負担を高めるという、極めて異常な政策です。国民は、納税者として消費者として二重に負担します。価格が下がっても、欧米のように財政から直接支払いをすれば、農家は困りません。今の財政負担と消費者負担という政策から財政負担だけの政策に移行するのです。しかも、直接支払いの対象を米価低下で影響を受ける主業農家に限定すれば、財政負担も大幅に軽減できます。

 これこそ真の減反廃止です。主食であるコメの価格を安くする国民消費者重視の政策です。生産者にも負担をかけません。私が、新型コロナにシルバー・ライニング“silver lining”を見出すとすれば、この点です。

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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