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政界を揺るがすかに見えたヤフーBB情報漏洩への恐喝未遂事件

【7】ソフトバンクを脅した創価学会幹部/2004年

大鹿靖明 ジャーナリスト・ノンフィクション作家(朝日新聞経済部記者)

「恐喝」現場を録画しての逮捕劇。容疑者は創価学会幹部

 広報室長だった田部康喜はこのときのことを振り返ってこう語る。「子会社の法務部長が知るところとなって孫さんや私に連絡してきたんです。相手はA4判の紙に何人かの個人情報を書いて寄越し、『買わないか』と持ち掛けてきたんです。これはおかしいと思い、早速孫さんに伝えて対策チームを設けました」。

 孫は、個人情報の流出と金銭の要求を知ると即座に、「脅しには屈せず、犯人には1円たりとも払わない」「迅速に外部に公表し、嘘をつかない」「情報流出による二次災害を起こさない」の3方針を決め、1月19日には警視庁に通報した。ソフトバンクは警視庁と相談のうえ、話し合いに応じるふりをして1月21日、湯浅を招き寄せた。

 法務部長が応対したが「法務部長の名刺だと相手に怪しまれると思い、急遽、別の肩書の名刺を作って持たせた」(田部)という。応接室に隠しカメラと録音機を用意し、「データ流出を抑えるにはカネを払えばいい」と湯浅が要求する一部始終を押さえた。このとき湯浅は130人分のリストを紙に印字して持ってきた。

 ソフトバンクは警視庁の指示に従い、同23日にも都内のホテルで湯浅と面談し、彼が寄越したプラスチックケース状のもの(中に顧客情報を収めたDVDが入っていたと思われる)をそのまま警察に提出した。26日には湯浅から再度、カネの要求があった。ソフトバンクはすぐに警察に被害届を提出し、湯浅が真っ先に逮捕され、やがて芋づる式に竹岡や右翼の森も捕らえられた。

拡大「ヤフーBB」のコールセンターでは、顧客情報などの持ち出し防止のため、持ち物を中身の見える透明な袋に入れ、ICカードでゲートを開けて出入りするようになった。制服にはポケットがない=2005年2月18日、東京都内
 彼ら容疑者の素性が明らかになると、事件は別の顔を見せ始めた。SSTの社長の竹岡と副社長の湯浅はともに創価学会の幹部だったのである。

 竹岡は創価学会副男子部長や創価班委員長、聖教新聞広告局担当部長などを経て創価学会豊島戸田分区の副区長だった。湯浅は聖教新聞の販売店主などを経て函館五稜郭圏の副圏長だった(ともに事件発覚と同時に辞任)。しかも、竹岡は共産党の宮本顕治委員長宅盗聴事件の実行犯の一人でもあったから大騒ぎになった。もはや、単純な個人情報流出という事件ではなかった。ソフトバンクの広報担当者も「政界を揺るがすかもしれません」と興奮気味に話していた。

拡大【左】盗聴事件があった日本共産党の宮本顕治委員長宅付近。電柱には電話用の端子函が取りつけられ、端子ボックスの中に盗聴器らしきものが仕掛けられていたという【右】盗聴器が取り外されて、コードが残ったままの電柱と端子ボックス=いずれも1970年7月、東京都杉並区高井戸
 宮本盗聴事件とは、東京都杉並区の宮本委員長宅近くの電話線に1970年、発信式の盗聴器がしかけられていたことが判明したというもので、その当時はだれの仕業かわからなかったが、後に盗聴にかかわった創価学会顧問弁護士の山崎正友が一部始終を暴露して創価学会の関与が明らかになった。1970年当時、大きな問題となっていた公明党・創価学会の言論出版妨害事件について、同事件について批判していた共産党の動きを探ろうと、宮本宅を盗聴したのである。

拡大日本共産党の宮本顕治委員長宅の盗聴事件をめぐる第1回口頭弁論に出廷する山崎正友元創価学会顧問弁護士=1980年10月31日、東京地裁
 盗聴を主導した山崎に取材すると、「1969年ごろ、民青や学生運動の動向を探ろうと裏の組織を作ったが、竹岡はそのときからのメンバーで、ずっと裏の仕事をしてきた。宮本盗聴がバレたときは、ほとぼりを覚ますため、いったん地方に逃がした」などと詳細を話してくれた。

 取材中ずっとボディーガードのような屈強な男性が背後に控えているのが気になり、「秘書の方ですか」と山崎に聞くと、「四六時中、こうやって見張られているんだ。家の前にはずっと車が止まり、中から監視されている」と彼は打ち明けた。これには取材しているこっちも驚愕した。組織の報復なのだろう。

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筆者

大鹿靖明

大鹿靖明(おおしか・やすあき) ジャーナリスト・ノンフィクション作家(朝日新聞経済部記者)

1965年、東京生まれ。早稲田大政治経済学部卒。ジャーナリスト・ノンフィクション作家。88年、朝日新聞社入社。著書に第34回講談社ノンフィクション賞を受賞した『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』を始め、『ヒルズ黙示録 検証・ライブドア』、『ヒルズ黙示録・最終章』、『堕ちた翼 ドキュメントJAL倒産』、『ジャーナリズムの現場から』、『東芝の悲劇』がある。近著に『金融庁戦記 企業監視官・佐々木清隆の事件簿』。取材班の一員でかかわったものに『ゴーンショック 日産カルロス・ゴーン事件の真相』などがある。キング・クリムゾンに強い影響を受ける。レコ漁りと音楽酒場探訪が趣味。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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