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台湾のTPP加入を淡々と進めよう

中国には反対する権限が何もない

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 9月22日、台湾がTPP加入申請を行った。

 16日の中国の加入申請に間髪を入れずに行ったものだ。新規加入申請国は既加盟国の了承が必要となるので、中国が加入すると、台湾が加入できなくなることを恐れたのだという解説が行われている。同時に、中国からの圧力が高まる中で、政治的な対抗措置としての性格もあるのだろう。

台湾のTPP加入に障害はない

 中国のTPP加入に関する記事で、私は対中国との関係でも台湾のTPP加入を活用すべきだという趣旨から、「台湾はTPP協定を熱心に勉強している。加入交渉に時間はかからないだろう。台湾が高いレベルの協定を受け入れて中国ができないということになれば、中国のメンツは保てない。」と述べた(「中国のTPP加入申請、安易な妥協をしてはならない」2021年09月21日付け論座)。

 これについて説明する前に、トランプが2016年大統領選挙に勝利した直後に私が書いた「トランプ氏が世界貿易を破壊する」(2016年11月16日付け論座)という記事の一節を引用したい。

 「11月10日、11日に台湾で開催されたTPP(環太平洋経済連携協定)のシンポジウムに招かれ、発表・討議に参加した。9日に台北のホテルに到着したら、テレビでトランプが勝利宣言をしていた。わが目を疑う光景だった。

動画メッセージでTPP離脱の意向を表明するトランプ前米大統領拡大動画メッセージでTPP離脱の意向を表明するトランプ前米大統領

 このシンポジウムは、台湾がTPPに参加するためには医療や食品の安全性の分野でどのような対応をすればよいのかという狙いを持って、台湾の厚生労働省が各国の専門家を招いて開催したものだった。

 開始の前日にTPPへのアメリカの参加が困難になったというアクシデントが起きてしまった。しかし、いずれ同じような協定が結ばれるだろうから、台湾としてTPPやWTOについて専門家の意見を聴取するべきだという観点にたって、台湾の法学研究者等も交え熱のこもった議論が行われた。」

記者会見する台湾の蔡英文総統(西本秀撮影)拡大記者会見する台湾の蔡英文総統(西本秀撮影)

 9月23日付の朝日新聞は、「台湾は10年前から、関連法令の整備を進めてきた」という言葉を紹介しているが、そのとおりだろう。このシンポジウムが開催されたのは5年前だが、台湾政府の行政官も、大学の法学者も、TPP協定の細部についてまで、高い理解を持っていた。23日、台湾の蔡英文総統は、日本語で、「石の上にも五年!」「総統になってからこの水準の高い貿易協定の参加を準備してきました」「台湾は全てのルールを受け入れる用意がある」と投稿している。シンポジウム開催後、TPP加入のための5年間の蓄積があるのだろう。

TPPへの加盟申請を報告する蔡英文総統のツイート

 台湾がシンポジウムを開催していたころ、中国では、TPPに参加するのが良いかどうかという入り口の議論が中心で、TPPに入ることを前提として国内の法制度をどのように修正すべきかという、より進んだレベルの議論まで行われていなかったように思われる。中国と違い、台湾がTPPの諸協定を受け入れるのに、ほとんど問題はないだろう。

 加入交渉で問題となるのは、加入申請国の法制度がTPP協定に整合的かどうかという問題に加えて、加入申請国が既加盟国の市場開放に関する要求に応えられるかどうかである。

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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