高橋義憲(たかはし・よしのり) たかはしFP相談所代表
1964年生まれ。ファイナンシャルプランナー、社会保険労務士。銀行や証券会社、年金事務所での勤務を経て、「たかはしFP相談所」を設立。金融商品や社会保険制度に詳しく、年金事務所での年金相談などを手がけている。【ホームページ】takahashi-fp.com 【ツイッター】@fp_yoshinori 【フェイスブック】@takahayfp
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
正しく理解し、よりよい選択をするために
私は、ファイナンシャル・プランナー(FP)として、一般生活者の皆さんのライフプランニングのお手伝いをしています。年金に関しては、「いくらもらえるのか」とか、「何歳から受け取り始めるのがいいのか」というご相談を受けることが多くあります。
一方で、生活者の皆さんが漠然と抱いている、「少子高齢化で年金制度は大丈夫なのか」とか、「将来は、年金が少なくなり、生活できなくなるのではないか」という、老後に対する不安は、公的年金制度に対する理解と信頼が不十分であるためだと思っています。その原因の一つは、メディアから発信される情報に誤解を招くものが少なくないことでしょう。時には、専門家と呼ばれている方たちが発信している情報さえも、怪しいものがあります。
そこで、公的年金制度を正しく理解し、その制度は、私たち国民の選択によってより良くできるものであることを理解してもらい、すこしでも明るく、前向きに暮らしていけるようになればと思い、年金制度に関する情報を発信しています。
今回は、田村憲久厚生労働大臣による年金制度改革案の発表のあと、自民党総裁選に出馬した河野太郎氏が「消費税財源で最低保障年金」を柱とする抜本的な制度改革を唱えるなど、にわかに盛り上がってきた年金制度改革について、皆さんが正しく理解し、選択できるように解説をしていきます。
9月10日、田村厚生労働大臣は、定例記者会見の席上で、年金制度改革の検討を指示したことを報告しました。その骨子は、以下の通りです。
少子高齢化に対応するための給付水準を抑制する仕組み「マクロ経済スライド」が、2階建ての年金のうち、1階の基礎年金部分に効きすぎて、2階の報酬比例部分と比較して給付水準が大きく悪化する見通しとなっている。これだと、所得再分配機能が弱くなり、低所得者にとって不利となってしまうので、国民年金と厚生年金の財政調整を行うことによって、基礎年金部分の給付水準の改善を図り、再分配機能を取り戻す。
この改革案のための試算は、昨年12月に年金数理部会に「追加試算」として提出されていたものです。私は2019年の財政検証を基にした適用拡大等の制度改革が不十分で、まずは適用拡大の強化が今後の課題だと思っていたので、追加試算を出した意図について疑問を抱いていました。
ただ、この追加試算は公表されてからメディア等で、あまり大きく取り上げられることもなく、今回田村大臣によって制度改革の柱として検討を進められることになったことには、少々驚きを感じました。もしかしたら、河野氏が総裁選出馬と同時に、抜本的改革案を掲げることを事前に察知して、それをけん制する目的もあったのかもしれません。
まずは、追加試算に基づく改革案について、詳しく見てみましょう。下の表の通り、2019年の財政検証時にモデル世帯における所得代替率は61.7%ですが、これがマクロ経済スライドによる調整のため、現行制度のままだと51%に低下し、特に基礎年金部分の水準が大きく低下する(36.4%→26.5%)見通しになっています。
一方、今回の改革案(追加試算)だと、将来の所得代替率は改善し(51%→55.6%)、特に基礎年金部分の水準が大きく改善する(26.5%→32.9%)ことになります。