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河野太郎、岸田文雄両氏と田村厚労相、3氏の年金改革案を読み解く

正しく理解し、よりよい選択をするために

高橋義憲 たかはしFP相談所代表

河野太郎氏が唱える抜本的改革とは

「積立方式なら、高齢化や人口減少の影響を受けない」のか?

 菅首相の任期満了に伴う自民党総裁選は、9月17日に告示され、4人の候補が立候補しました。その候補者の1人、河野太郎氏がぶち上げた「消費税財源で最低保障年金、2階部分は積立方式」という抜本的年金改革案の報道に、私は耳を疑いました。

拡大自民党総裁選の候補者共同記者会見に臨む河野太郎行政改革相=2021年9月27日、東京・永田町
 なぜなら、税財源による最低保障年金は、旧民主党が政権交代時に公約として掲げたものですが、結局財源を確保することができずにお蔵入りとなったという経緯があるものです。また、2階部分の積立方式についても、公的年金の実質的価値、すなわち購買力を将来にわたって安定的に維持するためには賦課方式が適しているということで、議論の決着がついているものなのです。

 ちょうどタイミングよく、河野氏の著書「日本を前に進める」が8月26日に出版されていて、その中の「新しい年金制度」という章の冒頭では、次の様に述べられています(太字による強調は筆者によるもの)。

 人口が減少し、高齢化が進むこれからの日本に必要な年金制度とは「老後の生活を支える年金の財源を、自分自身が現役のうちに積み立てる、自分の世代で完結する積立方式の年金制度」です。この積立方式ならば、前後の世代に負担をかけず、高齢化や人口減少の影響を受けることもありません。
 (中略)
 年金の一階部分は、老後の最低限の生活を保証するためのもので、消費税を財源として、年金受給年齢に達したすべての日本人に支給されます。ただし、所得制限があり、一定以上の所得、資産のある高齢者には支給されません。二階部分は、現役時代の生活水準を老後も維持するために、自分が現役のうちに積み立てる金額に比例して支給される積立方式の公的年金です。

問題は少子高齢化による「パイの縮小」と「どう分け合うか」

 まずここで、河野氏は「積立方式ならば少子高齢化の影響を受けない」という典型的な勘違いをしています。この点については、社会保障研究の第一人者であるニコラス・バー教授(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス)の「Output is central.(生産物こそが重要)」という考え方を紹介した、権丈善一教授(慶應大学商学部)の次の文章が参考になります(太字による強調は筆者によるもの)。

 「生産物こそが重要(Output is central)であり、年金受給者は金銭に関心があるのではなく、食料、衣類、医療サービスなどの消費に関心がある。鍵となる変数は将来の生産物である。賦課方式と積立方式は、将来の生産物に対する請求権を設定するための財政上の仕組みが異なるにすぎず、2つのアプローチの違いを誇張すべきではない(日本経済新聞2016年12月23日、やさしい経済学「公的年金保険の誤解を解く(2)」)
 20年前、30年前から、お金を蓄えて、将来の生産物に対する請求権を確保していたつもりでいても、その請求権の基になる貨幣価値は変化を余儀なくされます。ニコラス・バー教授が言うように「年金受給者が購入できる生産物がなければ、貨幣は無意味となる」わけです。生産物がなくなるというのは極端ですが、年金の財政方式が積立方式であれば、少子高齢化の影響を受けないと信じている人の目を覚まさせる言葉としては分かりやすいと思います。(日本経済新聞2016年12月26日、やさしい経済学「公的年金保険の誤解を解く(3)」)

 この文章を図で表すと下の図のようになります。生産物のパイが少子高齢化によって縮小する中、高齢者向けの財やサービスに超過需要が生じると、インフレによって積立資産の購買力が低下してしまうかもしれませんし、あるいは、積立資産を現金化する際に、市場の需要が十分なければ資産価値が低下してしまいます。

 このように、積立方式でも少子高齢化の影響は受けるというのが、学術的には常識となっています。

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筆者

高橋義憲

高橋義憲(たかはし・よしのり) たかはしFP相談所代表

1964年生まれ。ファイナンシャルプランナー、社会保険労務士。銀行や証券会社、年金事務所での勤務を経て、「たかはしFP相談所」を設立。金融商品や社会保険制度に詳しく、年金事務所での年金相談などを手がけている。【ホームページ】takahashi-fp.com 【ツイッター】@fp_yoshinori 【フェイスブック】@takahayfp

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです