「所得倍増」は寂しい連想ゲーム? 衆院選で再分配の論争を
2021年10月08日
耳に心地よい言葉のシャワーだ。「新しい資本主義」「令和版所得倍増計画」「分配なくして次の成長なし」。でも、それが実現できるのだろうか。この政権に。できもしないことを掲げるのでは無責任という批判を覚悟しなければならない。
この会見で見る限り、話す側も聞く側も、もはや「所得倍増」計画をなかったことにしようとして暗黙の談合状態にでもあるかのように国民の目に映りかねないと思うのだが、それでいいのだろうか。
文字通りの「倍増」など、できるはずもないことが明白である。経済学の「3面等価の原則」にあるように、国民所得は国内総生産(GDP)と同じである。新たに生み出された付加価値は国民に分配される。だから分配すべき国民所得の総額を増やそうとすれば、GDPも必然的に増加しなければならないのである。
つまり、おおざっぱな言い方になるが、文字通りの所得倍増を実現しようとすれば、マクロ経済学の見地からは、現在の日本の500兆円台のGDPを1000兆円台にしなければならないということになる。安倍首相の経済政策はGDP600兆円を目標に掲げたが、実現できなかった。歴代最長政権でも600兆円が実現できなかったことを考慮すれば、所得倍増は岸田氏が安倍氏より長く首相をつとめても実現不可能な幻の目標だというしかない。
岸田氏本人も、すでに9月8日付ダイヤモンド・オンラインのインタビュー記事(岸田文雄氏に聞く「所得倍増計画」の全貌、分配でアベノミクスを“進化”)で、次のように述べている。
富裕層が消費をけん引すればよいという指摘もありますが、富裕層だけでは消費の押し上げには限界があります。国民全体の所得が増えてこそ、消費拡大につながるのです。もちろん低成長が続く現代において、所得を「2倍」にするのは、現実的とはいえません。ただ、「倍増」というメッセージを打ち出すことで、企業や国民の意識を変えていきたいと考えています。
どうやら、額面通りに受け止めてはいけない表現らしい。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください