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岸田政権の経済政策は穴のあいた大風呂敷か

「所得倍増」は寂しい連想ゲーム? 衆院選で再分配の論争を

小此木潔 上智大学教授(政策ジャーナリズム論)、元朝日新聞論説委員

 耳に心地よい言葉のシャワーだ。「新しい資本主義」「令和版所得倍増計画」「分配なくして次の成長なし」。でも、それが実現できるのだろうか。この政権に。できもしないことを掲げるのでは無責任という批判を覚悟しなければならない。

幻の「所得倍増」計画

拡大会見で、質問に答える岸田文雄首相=2021年10月4日午後9時52分、首相官邸
 岸田文雄氏が首相に選出された10月4日の記者会見では、不思議なことに「令和版所得倍増計画」に対する説明は一言もなかった。もっと不思議なのは、これに関する質問すら聞かれなかったことだ。自民党総裁選挙でのスピーチが幻だったのか。それとも計画自体が幻なので、聞くまでもないということなのか。

 この会見で見る限り、話す側も聞く側も、もはや「所得倍増」計画をなかったことにしようとして暗黙の談合状態にでもあるかのように国民の目に映りかねないと思うのだが、それでいいのだろうか。

拡大池田勇人首相=1961年
 宏池会の伝統を引き継ぐ立場にいるとされる岸田氏としては、「東京五輪」のついでに懐かしい池田勇人内閣の「所得倍増」計画を国民に想起してもらい、その人気にあやかりたいというだけのことなのかもしれない。だがそんな連想ゲームはなんだか寂しすぎないか。

 文字通りの「倍増」など、できるはずもないことが明白である。経済学の「3面等価の原則」にあるように、国民所得は国内総生産(GDP)と同じである。新たに生み出された付加価値は国民に分配される。だから分配すべき国民所得の総額を増やそうとすれば、GDPも必然的に増加しなければならないのである。

 つまり、おおざっぱな言い方になるが、文字通りの所得倍増を実現しようとすれば、マクロ経済学の見地からは、現在の日本の500兆円台のGDPを1000兆円台にしなければならないということになる。安倍首相の経済政策はGDP600兆円を目標に掲げたが、実現できなかった。歴代最長政権でも600兆円が実現できなかったことを考慮すれば、所得倍増は岸田氏が安倍氏より長く首相をつとめても実現不可能な幻の目標だというしかない。

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筆者

小此木潔

小此木潔(おこのぎ・きよし) 上智大学教授(政策ジャーナリズム論)、元朝日新聞論説委員

ジャーナリスト、上智大学教授。群馬県生まれ。1975年朝日新聞入社。富山、奈良、大阪、ニューヨーク、静岡、東京で取材。論説委員、編集委員を経て2014年から現職。著書に『財政構造改革』『消費税をどうするか』(いずれも岩波新書)、『デフレ論争のABC』(岩波ブックレット)。監訳書に『危機と決断―バーナンキ回顧録』(角川書店)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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