格差、内需不足、少子化を招いた2100万人の重さ
2021年10月12日
岸田首相は10月8日の所信表明演説で、「新自由主義的な政策は富める者と富めない者の深刻な分断を生んだ」と指摘し、「新しい資本主義の実現を目指す」と述べた。新自由主義からの転換を訴えた柔軟さを評価したい。
しかし、市場原理や効率を重視する新自由主義が具体的にどのような弊害をもたらしたのか、何をどう変えようとするのか、岸田氏から具体的な説明は何もなかった。
新自由主義の特徴を最もよく表している政策と言えば、非正規雇用である。それが社会にもたらした影響の大きさは計り知れないものがある。岸田氏に代わり、転換の期待をこめて考察したい。
上のグラフは非正規雇用の推移である。1990年は男女合計833万人だったが、2020年には2.5倍の2100万人に増えた。この国の労働者全体の35%にあたる。
グラフは1995年から急速に立ち上がっている。この年、日経連(現・経団連)が重要な提言を行った。労働者を「長期能力活用型」「高度専門能力活用型」「雇用柔軟型」の3種類に分けて雇用すべきだとしたのである。
1つ目と2つ目が企業にとって有能不可欠な人材であるのに対し、3つ目の「雇用柔軟型」は、低賃金で雇用の調整弁に使える便利な存在とされた。能力アップの研修を受ける機会もない人々、それが非正規(契約社員、派遣社員、パート等)である。
当時、戦後最大のバブル崩壊(91年)によって企業は過剰な債務や人員を抱えていた。正社員をリストラし、積極的に非正規に置き換えることで人件費を減らす狙いがあった。
必要な法改正には人材派遣業界も協力した。2004年には小泉純一郎内閣が製造業への人材派遣を解禁し、非正規の業務範囲をさらに広げた。
一連の規制緩和は企業の苦境を救い、グローバル時代に備えてコスト競争力を高めるのに役立った。また自分の都合に合わせて働きたいという労働者から歓迎されたことも事実である。
しかし、きつい言い方をすれば、非正規は格差を広げることを承知の上で、政府と経済界が共同で作った「収奪の仕組み」に他ならない。この政策は、一般国民が感じる以上に、格差拡大、慢性的な内需不足、少子化という重大な変化を社会にもたらした。
非正規の賃金は職種や勤め先にもよるが、おおむね正規の6~7割が多い。正規と非正規はそれぞれ「勝ち組」と「負け組」になり、格差は子供世代の教育にも連鎖していく。
非正規が全労働者の3分の1を超えた結果、かつて「一億総中流」と言われた分厚い中間層は細ってしまった。
バブル崩壊後、日本は長い内需不足から抜け出せていない。購買力の弱い非正規が増えたことが、「失われた30年」のデフレを後押ししたのだ。
上のグラフは、財務省が発表した労働分配率の推移である。労働分配率とは、企業が生み出した付加価値のうち賃金などで労働者が手にする割合をいう。
90年代は70%台で推移していたが、第二次安倍内閣になって60%台に下がってきた。独立行政法人・経済産業研究所や日本総研は、「雇用の非正規化が分配率低下の一因になった」と指摘している。
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