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衆院選は、小選挙区制のままでよいのか?

世襲の優先、政策通議員の減少…数多い課題を考える

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

小選挙区をめぐる河北新報の秀逸な特集

 今回の衆議院選を前に、宮城県の河北新報は、中選挙区時代から東北で衆院選を戦った自民の閣僚経験者ら5氏にインタビューしている。その発言は、次のように、「現状への危機感がにじむ示唆に富む内容だった」と言う。

 「政党トップの人気にすがる『風頼み』の議員が増え、主体性が消えた」「意見をぶつけ合う切磋琢磨(せっさたくま)がなくなり、人が育っていない」。政治家としての質の低下を指摘し、「改革は大失敗だった。政治のスケールが小さくなった」と後悔の言葉も漏れた。(2021年9月27日付け河北新報社説

 河北新報のインタビューから、参考になる発言を取り上げたい。5氏の中には、私が存じ上げている人もいる。もっと早く言ってもらいたかったという気がしないでもないが、河北新報の特集は秀逸だ。

 防衛大臣・農水大臣を務めた玉沢徳一郎氏は、今の小選挙区制の下では「(候補者は)よほどまじめでなければ政策を勉強しない」とする。「風」がどこに吹くかで無党派層の支持が決まるためだ。
「政党の助成、見直し必要」8月24日付け

 環境庁長官・防衛庁長官を務めた愛知和男氏は、中選挙区制が抱えていた「政治とカネ」をめぐる問題を認め、小選挙区制になってからそれがかなり改善したと評価した上で、「党公認の後ろ盾がないと、立候補することさえ難しい」という新たな課題を指摘、次のように述べる。

「(党の)公認までのプロセスが明瞭でない。批判をかわすために公募という手法も採られているが、効果は上がっていない。公認権も選挙資金の差配も党本部が全て握っているため、党内で物が言えない。公認権がいわば脅しとなり、党本部の言うことを聞かざるを得なくなった。政治家のスケールを小さくしている要因だ。議員一人一人の面白みがなくなっている」(「政治家のスケール小さく」8月27日付け

 愛知氏は、小選挙区制は「日本の社会になじまない」として、「戻せるなら(中選挙区制に)戻した方がいい」とまで語っている。戻せないのであれば、米国のように予備選を導入し、幅広い人材を募れるようにすることを提案している。これは後述するように重要な提言だ。

 衆議院・参議院それぞれで議員を務めた荒井広幸氏は政党助成金の問題を取り上げている。

「小選挙区では政党助成金を党が配るため、党の代表や幹事長に権限が集中しがちだ。機嫌を損ねると公認やポストがもらえないかもしれないと、意見が違っても反対しにくくなる。それが1強と言われる安倍晋三政権のような形に表れる」(「政治改革、制度に矮小化」8月27日付け

 さらに、菅前首相をはじめ、中選挙区を経験していない議員が増えたことによって議員同士の切磋琢磨がなくなったため、「政党と政治家は劣化する」とまで言い切る。

 「政策で意見をぶつけ合う経験をしていない。公認をもらえば党首の顔で勝てるから、人が育たない。『○○チルドレン』がいい例だ」

 公明党副代表の井上義久氏は、中選挙区制下では議員と選挙区の有権者のつながりが密だったと振り返りつつ、小選挙区制の問題点を次のように指摘する。

「(中選挙区制では)専門分野を磨き、『自分の足で立てる』政治家も育った。小選挙区では党の候補者が1人だけで、公認さえ得られれば自動的に党が全面支援してくれる。政治家が自分の足で立つ意識は薄れた」(「民意反映に制度改革を」8月28日付け

 以上の発言を踏まえながら、小選挙区制の功罪を評価したい。

目的としながら実現できなかった「二大政党制」

 小選挙区制で政権交代は2回起こった。しかし、二大政党制は実現できなかった。「コロナとコメと選挙 〜立憲民主党がたどる日本社会党の道」で述べたように、自民党が大失政をしたり分裂でもしない限り、当分の間、55年体制と同様、1.5大政党制が続くだろう。

 そもそも、日本の政党は、アメリカの民主党と共和党、イギリスの保守党と労働党のように、大きな考え方の点で対立する二大政党というものではなかった。アメリカの共和党は現在トランプ党と呼ばれるくらい変容し、通商政策では、どちらの党も保護主義を主張している。しかし、大きな政府か小さな政府か、中絶を認めるかどうか、コロナ・ワクチンやマスクを強制するかどうか、移民をどこまで認めるか、公的な医療保険をどこまで進めるか、などの点で、民主党と共和党には、はっきりした政策の違いがある。党名を聞けば、推進しようとする政策はある程度想像がつくくらい、両党の思想・考えに差がある。

米連邦議会(2019年、ランハム裕子撮影)拡大米連邦議会(2019年、ランハム裕子撮影)

 日本の自民党と立憲民主党の間に、そのような違いはない。“一億総中流社会”という言葉があったくらい、英米と異なり、国民の間に人種や階級などによる分断が少ない(と思っている)社会が背景にあるからだろう。また、今回の総選挙がバラマキ合戦と批判されるように、政党も同じベクトルの強弱・大小を競うだけで、逆ベクトルとなるような、はっきりと対立する政策を示してこなかった。農政についても、納税者負担で高米価を維持する減反政策に対し、野党はもっと米価を高くしろと言うばかりで、貧しい消費者のためには減反を廃止して米価を下げ農家には直接支払いをすべきだという政策を提案することはなかった。

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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