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今後の政策展望はどうなる〜「参院選も与党大勝か」という試算も

政権交代を至上命題とする発想から脱却を

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

自民の「不思議の勝ち」と立憲民主の「必然の負け」

 「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし。」剣道でよく言われるこの言葉こそ、今回の選挙に最もよく当てはまりそうだ。

 森友学園問題や桜を見る会の不祥事や新型コロナへの対応など、安倍・菅政権を引き継いだ岸田政権には、相当な逆風が吹いていた。同時に2012年以降3回の総選挙で自民党は大勝していた。このため、選挙前には、自民党は大幅に議席を減らすのではないかと予想された。岸田総裁自身、選挙前の276議席から40席以上も減らしても、過半数の233を維持すれば、まずまずだと思っていたはずだ。当日の選挙速報でも、最初のうちは、自民党は過半数を確保できないかもしれないという負けムードだった。それがわずか15議席減に収まり、261議席の“絶対安定多数”を獲得した。

岸田文雄首相(10月31日撮影)岸田文雄首相(10月31日撮影)

 逆に、共産党との選挙協力を実現し、約7割の小選挙区で統一候補を擁立した立憲民主党は、議席数を大きく伸ばすものと予想された。しかし、結果は13議席減の惨敗となり、枝野代表は辞任に追い込まれた。

 戦前の予想は全く当たらなかった。下馬評の低いチームが実力のあるチームに勝利したようなものである。高校野球で、力のないチームがどうして勝ったのか分からないときに使われる“無心の勝利”または“無欲の勝利”というものだろう。

コロナ感染者激減という予想外の「運」

 勝った自民党に風が吹いたわけではない。自民党の政権運営、政策実績、政策提案が評価されたわけではない。自民党はよくわからないうちに勝ってしまったのである。勝ち方も圧勝とは言えなかった。石原伸晃、野田毅氏ら大物議員が落選した。比例復活したものの、現職の幹事長が小選挙区で議席を失った。小選挙区では僅差の勝利が多かった。総じてみると、辛勝と言ってよいだろう。岸田総理が応援に入った選挙区の勝率は5割に届かなかった。自民党幹部は、まさに「勝ちに不思議の勝ちあり」という思いだろう。

岸田文雄首相(10月19日撮影)岸田文雄首相(10月19日撮影)

 一つの要因は、専門家も原因を明確に特定できないほど、新型コロナの感染者数が激減したことだ。自民党の総裁選前にこれだけ減少していれば、菅前総理は総裁選出馬を断念しなくてもよかったかもしれない。もし、感染者数の減少に政策が効果を発揮していたとすれば、それは岸田氏が追い落とす形となった菅政権の功績である。自民党にとっては、新型コロナ対応の失敗という最悪の材料がなくなった。立憲民主党にとっては、自民党を攻撃できる最大のイッシューが消えてしまった。岸田総理は、運が良かった。

オウンゴールで自滅した立憲民主党

 もう一つの大きな要因は、立憲民主党と共産党の選挙協力である。立憲民主党の枝野代表たちは、両党の集票力を合算すれば、自民党候補を上回るはずだと考えた。足し算の考えである。しかし、外交や安全保障などの大きなイッシューで、理念や政策が異なる政党同士が一緒になることで、多くの有権者にそっぽを向かれてしまった。まず、立憲民主党の支持団体であり、共産党と対立してきた連合の票が、両党の統一候補に行かなかった。労組票が強い愛知県では、実に4戦全敗である。さらに、保守的な考えの強い地方では、共産党に対する拒否感が強かった。“立憲共産党”というネガティブキャンペーンも行われた。両党の選挙協力が引き算に作用してしまったのである。企業の合併と同じである。プラスの合併もあるし、マイナスに働く場合もある。

立憲民主党代表からの辞意を表明する枝野幸男氏(11月2日撮影)立憲民主党代表からの辞意を表明する枝野幸男氏(11月2日撮影)

 他方で、共産党と距離を置いた国民民主党は、議席を伸ばした。立憲民主党の負けは「不思議の負け」ではなかった。共産党との選挙協力で、負けるべくして負けたのである。自民党からすれば、立憲民主党のオウンゴールのようなものだった。同党にとっては「不思議の勝ち」の原因となった。

分配よりも成長を支持した有権者

 立憲民主党にとって「不思議の負けではない」もう一つの原因は、選挙の争点の設定に失敗したことである。新型コロナの感染者数激減で、立憲民主党は、自民党政権の新型コロナ対策の失政を追及できなくなった。その一方、経済は悪化している。不祥事よりも経済の立て直しに国民の関心は向かう。こうして経済政策が大きな(私の観察では“最大の”)争点となった。

 安倍・菅政権によるアベノミクスを批判したい立憲民主党は、アベノミクスで格差が拡大したと主張し、分配重視の政策や消費税率の引き下げを掲げた。

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