岸田政権の経済政策は問題だらけ〈上〉
2021年12月01日
これはもう税金のバラマキそのものだ。
それがいちがいに悪いとは言わない。けれど、これは本当に経済対策なのだろうか。来夏の参院選に向けた政治活動ではないか。いやひょっとすると、憲法改正の国民投票を目論む政権がそれに向けて世論の支持を得るための仕掛けだろうか。
有意義な財政支出なら、むげに反対は出来ない。
コロナとの闘いで疲弊した暮らしと経済の立て直しに本当に必要であるのならば賛成したいところだ。
しかし、やはり何かがおかしい。だからこそ、納税者として問うておきたい。
こういう税金の使い方は、正しいのか。
規模は妥当なのか。
巨額の財政負担のツケはだれがどうやって払うのか。
これは経済対策というよりも、それに名を借りた政権維持・浮揚策ではないのか、と。
国会はこれらを質す場として機能すべきであって、そうでないなら有権者はいずれ怒りの一票を投票箱に叩き込むしかなくなるかもしれない。
この経済対策は「新型コロナウイルス感染症の拡大防止」に22.1兆円、「未来社会を切りひらく『新しい資本主義』の起動」に19.8兆円、「『ウィズコロナ』下での社会経済活動の再開と次なる危機への備え」に9.2兆円、「防災・減災、国土強靱化の推進など安全・安心の確保」に4.6兆円の財政支出をそれぞれ行うという。
財政支出の総額はこれまで最大だった2020年4月の経済対策(48.4兆円)を上回る。
11月20日付の日本経済新聞の1面トップ記事は、見出しに「経済対策、見えぬ『賢い支出』」と、怒りをあらわにした。記事は、「未来の成長を呼び込む『賢い支出』とは言いがたい項目が目立ち、目標とする『成長と分配の好循環』につなげられるかは見通せない」と厳しい評価だ。
もっとも、日経は分配より成長優先の論調が基本であり、そうした視点から経済対策に盛り込まれた分配策に厳しい評価を下しているように見える。
筆者はいささか視点を異にする。
新古典派経済学の流れをくむ成長至上主義や供給重視派(サプライサイダー)の路線は、岸田首相ですら転換を唱えている「新自由主義」あるいは市場原理主義の考えに連なる。そうした経済思想と政策はこれまで格差を拡大してきたし、リーマンショックと呼ばれた金融恐慌を生み、ポピュリズムのうねりを呼び起こす土壌をつくった。
今の日本と世界に求められているのは、新自由主義とグローバリズムの行き過ぎを是正することだ。それには、需要創出を重視するケインズ経済学の発想と、低所得層や中間層を支援する政策が求められている、と筆者は考える。
そんな視点に立っても、政府の経済対策には「賢い支出」が見当たらない。疑問だらけであるのが今回の対策だ。
たとえば、「『ウィズコロナ』下での社会経済活動の再開と次なる危機への備え」のうち約1兆円が「Go To トラベル事業」向けだという。
旅行代金の割引率を従来の35%から30%とし、補助額の上限は従来の2万円から1万3000円に引き下げるというが、税金を使ってまでこの事業をする正当な理由があるのか。とことん国会で議論すべきだ。
しかも、この事業は旅行に出かける金や時間のある人達が主な補助対象となる。富裕層や比較的豊かな人々が多く含まれていることは確かだ。
もっと困っている人々への補助を優先しなくていいのだろうか。1兆円の巨費で、できることは沢山ある。多様な選択肢と比較しながら決めるべきではないのか。たとえば、医療や社会保障の担い手で低所得に置かれている人々の給与改善に振り向けるべきではないのだろうか。
経済対策では、「未来社会を切りひらく『新しい資本主義』の起動」の一環として看護師、介護士らの賃上げに約3千億円の財政支出を充てるという。
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