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歯止めなき防衛費の膨張、しわ寄せは生活に

岸田政権の経済政策は問題だらけ〈下〉

小此木潔 ジャーナリスト、元上智大学教授

 岸田政権が閣議決定した過去最大となる総額55.7兆円の経済対策。〈上〉では、連立を組む公明党の選挙公約を実現する方向で決まった「バラマキ」の問題点を指摘した。

補正予算で抱き合わせ、膨張する防衛費

 岸田首相は、憲法改正を実現したいとの姿勢を明らかにしている。衆院選の公約でも「日本国憲法の改正を目指す」とし、「国民の皆様の幅広いご理解を得て、今を生きる日本人と次世代への責任を果たします」と幅広い合意形成を目指す考えを示した。改憲の「条文イメージ」として憲法9条への自衛隊明記、緊急事態条項などを並べ、「全国各地で、憲法改正の必要性について丁寧な説明を行います」としている。

 こうした表現からうかがえるのは、改憲に慎重な公明党への配慮だ。

衆院本会議場で、所信表明演説をする岸田文雄首相=2021年10月8日
 日本維新の会は自民党の背中を押して改憲に突き進む姿勢を見せているが、公明党は支持母体の創価学会内部に改憲への反対論や慎重論を抱えているといわれる。国会で改憲を発議するには、公明党の賛成が不可欠だ。そのためにも巨額の予算で公明党の顔を立てておくことが、きわめて大切だと考えているのではないか。

 自民党が政権公約に盛り込んだ改憲の「条文イメージ」からは、自衛隊明記による9条改憲で平和憲法を骨抜きにしようとする発想がありありだが、すでにそういう方向で防衛費が急膨張を始めている。メディアは総じてこのことに鈍感で、国民はほとんど気が付かないでいる。そうでなかったら、衆院選の争点になっていた可能性がある。

補正予算案に3機に取得費が盛り込まれたは、海上自衛隊の哨戒機「P1」=2019年、伊豆半島上空
 政府は11月26日、35兆9895億円の歳出追加を盛り込んだ2021年度補正予算案を閣議決定した。しかしこれは経済対策実現のためばかりではなく、7738億円の追加防衛費も抱き合わせで盛り込まれていた。

 中国の強大化や米中対立の現状に対処するため、哨戒機や輸送機、迎撃ミサイルなどの装備購入を前倒しするのだという。

 補正予算を含めた予算額は、14年度の5兆885億円が21年度は6兆1160億円となり、7年で1兆円あまり増え、初めて6兆円台にのせた。これにより、防衛費は歴代政権が限度の目安としてきた国内総生産(GDP)の1%を超える規模となる。

 自民党は今回の衆院選の政権公約で防衛費をGDP比2%以上とすることを念頭に防衛力強化を進めることを打ち出しており、衆院選を機に今後は防衛費の大幅増額が基調となりそうな勢いだ。

軍事大国へ、議論なく歯止めが消える

 自民党の政権公約は、「政策BANK」という文書の中で「NATO諸国の国防予算の対GDP比目標(2%以上)も念頭に、防衛関係費の増額を目指します」としていた。「周辺国の軍事力の高度化」に対応し、重大かつ差し迫った脅威や不測の事態を抑止・対処するため弾道ミサイル等への対処能力を進化させ、相手領域内で弾道ミサイル等を阻止する能力の保有を含めて抑止力を向上させる、というのだ。

 北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の軍事力増強に対抗して軍備強化を進めるということである。

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