米国の利上げで円安、物価上昇へ。袋小路に追い込まれる日本
2021年12月24日
外食チェーンの値上げが相次いでいる。牛丼の吉野家や松屋は並盛りで40~60円、うどんや串カツチェーンも10~20円値上げした。低価格チェーン同士のギリギリの安値競争に限界がきている。
輸入小麦の政府売り渡し価格が10月から19%値上げされた。パン、パスタ、ケーキ、醤油など、身近な食品価格が上がり、他に冷凍食品やマーガリンも。同じ価格でも中身を減らして実質値上げした商品は多い。
この値上げラッシュの背景には、気候変動に伴う農産品の生産減少のほか、サプライチェーンの混乱、原油や天然ガス価格の上昇、円安による輸入価格上昇などがある。
とくに原油価格は、昨年4月に1バレル=10ドル台だったが、その後1年半で4倍の約80ドルまで高騰した。原油高は、ガソリンや化学製品の価格を高くし、工場のエネルギーコストを上げ、輸送費にもはね返るので、あらゆる産業に影響が及ぶ。
原油高の原因は、「脱炭素」で化石燃料への投資が急速に減り、供給不足が生じたことだ。再生可能エネルギーはまだ化石燃料を代替する水準に達していない。原油は直近では70ドル台に下がったが、油断できない。
レストラン「ロイヤルホスト」を全国展開するロイヤルホールディングスは、「2021年12月期決算は50億円の赤字になる見通し」と発表した。2年続きの経営危機を乗り切るため、商社の双日や銀行から238億円の資本支援を受けて急場をしのいだ。
しかし、同社は「本当の危機はこれから来る」と言い、不景気なのに物価上昇(インフレ)が続くスタグフレーションの到来を警戒している。
好景気で需要が増えて物価が上がるなら経済は健全だが、不景気と物価上昇が同時に起きるスタグフレーションは、一度はまると脱出が難しい。同社は「今から余力をつけておくよう努めている」気を引き締める。
実際、日銀が発表した11月の企業物価指数は前年より9%上昇。輸入物価指数(円ベース)は44%も上昇した。日本のインフレの足音が近づいている。
インフレの引き金を引くのは、米国の金融緩和政策の転換である。これまでFRB(米連邦準備理事会)は、コロナ対策として月額1200億ドルを市場に供給してきた。
しかし、この数か月は物価が予想以上に上昇し、人手不足が原因で人件費も高騰。そこでFRBはインフレ予防のために、12月から金融緩和の縮小(毎月300億ドルずつ削減)を実施している。
22年3月にこれが終了すると、FRBは次に金利を0.25%ずつ年3回、24年までに計8回引き上げる計画だ。「危機モード」にあった米経済を、金利2%程度の「正常モード」に戻す。英国など30数か国もすでに金利を上げた。
この動きが円安の呼び水になる。日銀の金融緩和で市場に溢れる資金が、ゼロ金利の日本から高金利の米国に流れる。これが円売りドル買いとなって円安が進む。
バンク・オブ・アメリカは、オミクロン株という不確定要素はあるが、「円相場は22年4~6月に1ドル=118円に上昇(現在は114円)、その後は120円超を含む円安水準で安定する」という基本シナリオを描いている。
一方、日銀は12月17日、金融緩和(ゼロ金利)をこれからも継続する方針を確認した。黒田総裁は「欧米の金融引き締めで必ず円安になるとは限らない」と楽観的な見通しを語った。
「独り我が道を行く」イメージだが、それでいいのだろうか。日本の投資家は以前から、潜在成長率が低くてゼロ金利の日本より、企業の成長性や収益性が高い米国に資金を投じてきた。日米金利差がその動きを加速する。
すると円安で輸入物価上昇が進み、コロナによる景気後退が回復しないまま、スタグフレーションに陥る懸念が生じる。外食チェーンが警戒するのはこの点なのだ。
気になるのは、日本国民にこれから来る物価上昇を吸収する体力があるかどうかである。
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