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食糧安保を脅かす農業政策〜コロナ後と円安、浮かび上がる国家的危機

現実味帯び始めた国民生活と農業の転落

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 円安になるということは、1ドルのモノを買うのにより多くの円を支払わなければならないということなので、国際価格が一定でも輸入品の価格は上昇する。消費者からすれば、円安よりも円高のほうがありがたい。円高の時に海外に旅行すると、そのメリットを強く感じる。EUがユーロを実現するとき、ドイツ国民の中に「強いマルクがなくなってしまう」という反対があった。マルクがユーロに切り替わることで、購買力が低下することを恐れたのだ。インフレに対抗するために、アメリカは金融政策を転換し、量的緩和を縮小する方向を打ち出した。いずれアメリカの金利が上昇していくと、円安がさらに進行するだろう。

 小麦について見ると、次の図が示すように、現在の価格は2008年に比べると低い水準にある。小麦価格は2010年以降安定的に推移している。

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食料品価格は、実は穀物価格の上昇率ほど上昇しない

 世界的な食料危機が叫ばれた2008年、穀物の国際価格は3倍に高騰したが、日本の食料品消費者物価指数は2.6%上昇しただけだった。

 日本の飲食料の最終消費額のうち輸入農水産物の割合は2%程度にすぎないからだ。国産農水産物でも11%で、87%は加工、流通、外食などが占める(2015年)。輸入農水産物の一部である穀物の価格が上がっても、最終消費には大きな影響を与えない。このような消費のパターンは先進国に共通する。我々は食料品を購入する際、農産物ではなく、加工、流通、外食にお金を払っているのだ。

 2008年フィリピンで起きたような食料危機は先進国では起きない。日本で2008年食料危機を感じた人はいなかったはずだ。2011〜13年にかけても国際価格は上昇したが、混乱はなかった。

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(出典)FAO"Food Outlook"、総務省統計局より筆者作成
(注記)国内CPIは2015年を100とした数値

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農業保護に名を借りた消費者への巨額負担押し付け

 しかし、日本の消費者は既に巨大な負担をしている。

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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