各国の利害に翻弄される脱炭素の不幸
2022年02月08日
「気温上昇を1.5度以内に抑える」――昨年11月のCOP26で約130か国・地域が合意した努力目標の達成が危ぶまれている。産業革命から150年ですでに約1度上昇しており、残されているのは0.5度しかない。
1.5度以内に収まれば人類社会は持続可能だが、収まらなければ、地球は温暖化の歯止めを失って徐々に灼熱化に向かう。これは科学の知見である
「1.5度以内」の達成には、CO2排出量を2050年までに実質ゼロ(カーボンニュートラル)にすることが必要だ。IEA(国際エネルギー機関)は、2050年までの排出量の見通しを3つのシナリオで示している(下のグラフ)。
(1) 黄色の「50年実質ゼロシナリオ」は、2050年にCO2排出量実質ゼロが実現する理想的なケース。気温上昇は1.5度以内に収まる。
(2) 灰色の「発表誓約シナリオ」は、各国が現在発表している政策が公約通りに全て実現するケース。それでも2100年には2.1度上昇する。
(3) 橙色の「公表政策シナリオ」は、各国が発表している政策に、実現の可能性や効果の度合いを加味したケース。2100年には2.6度上昇する。
このグラフが語るのは、現在の各国の政策を集めても、CO2排出量の抑制は(2)の2.1度上昇が精一杯であり、(1)の「1.5度以内」実現は困難だということである。
そこでIEAは、グラフ(1)の「50年には実質ゼロ」を着地点に設定し、そこからバックキャスト(逆算)して、着地点に行くためのエネルギー構成の道筋を試算した。それが下のグラフである。
石炭(青)利用は今後30年でなくし、石油(橙色)や天然ガス(灰色)は3分の1に減らす。逆に再生可能エネルギー(緑)は全体の6割以上に増やす、という内容だ。
しかし、エネルギーは経済の重要インフラであり、その確保や利用には各国の存立がかかる。当然のことながらCOP26では各国の利害対立が露わになり、グラフのような具体的な道筋を決めることはできなかった。
2015年のパリ協定は200か国が参加して大成功だった。それは各国が自発的に目標を掲げて取り組む方針だったからだ。
その後、人類に残された時間は少なくなり、COP26では規制を厳格に決めようとした。その結果、「世界は一つになって取り組む」どころか、各国の不協和音がかえって深刻になった。
理由の第一は南北問題(先進国と途上国の経済格差や対立)である。途上国は「エネルギーを大量消費してきたのは先進国ではないか。途上国が発展しようという時に『脱炭素』を言い出すのは勝手すぎる」と反発する。
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