任期中に国民と真摯な対話を
2022年02月24日
世界で金利が上昇している。コロナ対策で金融緩和政策をとってきた国々は、いま金融引き締めによるインフレ防止に転換している。ただし日本を除いて、である。
米FRB(連邦準備理事会)は、3月から連続的に2%超まで利上げをする。英国、ドイツはじめ、ブラジル、インドなども追随している。
利上げの背景にあるのは世界的なインフレだ。原油価格は1バレル=90ドル台に急騰。ロシアとウクライナが世界の主要産地である小麦・トウモロコシも高値に張り付いた。
電気ガス代から食料品、電子部品まで、原材料価格が値上がりしている。欧米の中央銀行は「インフレは長期化する」でほぼ一致している。
日銀が毎月発表する国内企業物価指数も、昨年10月以降ずっと前年比8~9%上昇している。これはいずれ消費者物価にはね返る。
金融緩和を続ける黒田総裁は、世界の動きにどう対応するのか。1月18日の黒田東彦総裁の記者会見では、「日本だけ超低金利では円安が進んで物価が上がるが‥」と危惧する質問が相次いだ。
しかし、黒田氏はその都度、「強力な金融緩和を今後も続ける」「正常化(緩和終了と金利引き上げ=出口)は何も考えていないし、議論するつもりもない」と述べて質疑を終えた。
異次元緩和は、後述するように「禁じ手」の手段を用いている。いつかは正常に戻さねばならず、出口は事前に十分検討して国民に説明するのが通貨当局の責任だ。「議論するつもりもない」と突き放すのはいただけない。
2月2日の衆院予算委員会。議員から「異次元緩和が地域金融機関の収益減につながったのではないか」と質問された黒田氏は、「(そうした指摘は)認めません」と強く否定した。
しかし、地方銀行が超低金利下の資金運用難で体力が低下しているのは周知の事実である。6日後の委員会では、当人ではなく、鈴木俊一財務相が釈明に追われた。
黒田氏は、この質問にはこの答え、という紋切り型の答弁ですませる傾向が目に付く。会見や国会審議で有意義な質疑が成立しないのは残念なことだ。
日銀はすでに9年間金融緩和を続けているが、2%目標は達成できず、GDPも低成長のまま。それどころか日本経済の根幹にさまざまな傷跡を残している。
(1)財政悪化は深刻。超低金利は安倍政権に国債を大量発行する口実(利払い費が少なくてすむ)を与えた。その結果、発行残高は9年間で約250兆円増えて1000兆円をこえた(上のグラフ)。
財務省の「仮定計算」では、金利が1.1~1.3%上がると、利払い費は6〜7年のうちに15兆円(現在は9兆円)に膨らみ、財政破綻の懸念が生じる。
(2)日銀の財務悪化がひどい。国債発行残高の約半分の約500兆円は日銀が引き受けている。太平洋戦争中の国債発行と同じ、禁じ手の「財政ファイナンス」である。
日本総研の河村小百合・首席研究員は「短期金利が1.2%に上昇するだけで日銀の財務は毎年5兆円の損失を出し、2〜3年続くと債務超過に陥る」と指摘する。中央銀行が債務超過になるような国の通貨や国債をだれが信用するだろうか。重大な問題である。
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