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ウクライナ侵攻をめぐる「デジタル・プロパガンダ」

「テキストだけ」の偽情報は、ディープフェイクより騙されやすい

小林啓倫 経営コンサルタント

 2022年2月24日、ロシアのウクライナに対する軍事侵攻が始まった。この原稿を執筆している時点では、ウクライナ軍が善戦し、戦前に予想されていたような短期間でのウクライナ陥落には至っていない。しかし同国とロシアとの戦力差は明らかであり、またプーチン露大統領が核兵器の使用もちらつかせるなど、予断を許さない状況が続いている。

 そんな中で、やはり発生したのがオンライン上での偽情報だ。実はロシアがウクライナ問題をめぐり、自国に有利なフェイクニュースを発信するのではないかという懸念の声が、米国政府関係者などから発せられていた。そして実際に、侵攻が行われる前から、ロシア発とみられる偽情報の発生・拡散が確認されている。

 国家が自国に有利になるよう情報を操作すること、すなわちプロパガンダは、古代ギリシアやローマの時代から存在していたと言われ、それ自体は目新しいものではない。しかし近年の特徴となっているのが、インターネットやデジタル技術を駆使したプロパガンダである。たとえば2016年の米大統領選挙では、同じくロシア政府が首謀者となり、共和党のトランプ候補を当選させるために、ソーシャルメディアを活用して偽情報を発信した疑惑が持たれている。

AIが生成した架空のプロフィール

 こうした「デジタル・プロパガンダ」とでも呼ぶべき行為は、技術の進化によって、さらに新たなステージに入ったようだ。侵攻発生直後の2022年2月27日、大手ソーシャルメディアのフェイスブック(Facebook)やインスタグラム(Instagram)を運営するメタ社(2021年にフェイスブックから社名変更)は、彼らのプラットフォーム上で反ウクライナのプロパガンダを行っていたアカウントを削除したことを発表した。

 驚くべきはその手口だ。アカウントに対する信頼性を高めるために、AI(人工知能)が生成した、実在しない人間のCG(しかし本当に撮影された写真のように見える)をプロフィール写真として設定していたというのである。

ベン・コリンズ記者のツイート拡大ベン・コリンズ記者のツイート
 これがどのような画像だったのか、メタ社の発表では公開されていないが、米NBCニュースの記者であるベン・コリンズが、自身のツイッター上でロシア政府が作成したものとみられるアカウントのひとつを紹介している。それは「ウラジミール・ボンダレンコ(Vladimir Bondarenko)」と名乗る人物のもので、「ウクライナ政府に反対するキエフ在住のブロガー」という設定がなされている。そしてそのプロフィール画像は、実在の人物を撮影したとしか思えないほどの精巧さだ。しかしコリンズ記者は、この顔写真にAIが生成する画像に見られる特徴が存在しているとして、フェイク画像であることを指摘している。

 またこうした偽アカウントをフォローするアカウントにも、AIが生成したとみられる顔写真を使ったものが確認されたそうである。言うまでもなく、フォロワーを水増しすることで、元のアカウントの信憑(しんぴょう)性を増すことが狙いだ。

 こうした精巧な偽画像、さらには偽動画をAIに生成させるというのは、もはや珍しい話ではない。AI技術の発展により、映像内の人物の顔や声をまったくの別人のものに置き換えたり、衣装や背景を変えてしまったりすることが可能になっている。最近ではそうしたAIを駆使したフェイクコンテンツの多くが、「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれる高度なAI開発手法を用いていることから、「ディープフェイク」とも呼ばれるようになっている。


筆者

小林啓倫

小林啓倫(こばやし・あきひと) 経営コンサルタント

1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える!金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『今こそ読みたいマクルーハン』(マイナビ出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(アレックス・ペントランド著、草思社)、『データ・アナリティクス3.0』(トーマス・H・ダベンポート著、日経BP)など多数。また国内外にて、最先端技術の動向およびビジネス活用に関するセミナーを手がけている。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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