ウクライナ危機は日本の家計にどう影響するか
何人かの民間エコノミストが、テレビに出演して、小麦の用途は裾野が広く、パン、ラーメン、うどん、スパゲッティなどさまざまな食品の原料なので、家計が影響を受けると指摘していた。
しかし、「食糧安保を脅かす農業政策〜コロナ後と円安、浮かび上がる国家的危機」(2021年12月25日)で指摘したように、これは誤りである。今回と同様、2008年小麦の国際価格が2~3倍に上昇し、パンなどの価格も上がったとき、食料品全体の消費者物価指数は、2.6%上がっただけだった。2012年ころ穀物価格が騰貴したときも、食料品の消費者物価指数はほとんど変化していない。
大きな理由は、小麦の輸入額は、日本全体の飲食料費支出の0.2%に過ぎないことである。我々が払う飲食料費の9割は、加工、流通、外食に帰属する。農産物への帰属はわずかで、特に小麦を含めた輸入農産物への支出は2%である。

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さらに、先ほどの、原油と穀物(ガソリンとエタノール)のように、消費には代替性がある。牛肉の値段が上がると、豚肉の消費を増やそうとする。我々は、パンやラーメンなどの小麦製品だけを食べているのではない。パンの値段が上がれば、その代替品である米の消費が増える。2008年には、それまで減少していた米の消費が増加した。
財やサービスに代替性があり、消費者が、一定の所得を前提に、財やサービスの相対価格を考慮して、適正な財の組み合わせを決定することは、ミクロ経済学の初歩である。食料の消費や需給を検討する際に、「代替性」は重要なキーワードである。
なお、2008年米の消費が増えたのは、スーパーの棚にフリカケが並んだからだという(珍)説が、農水省の中でもっともらしく伝わり、かなりの職員が信じていた。実際にはパンなどの小麦製品の価格が上がったから、相対的に価格が低下した米の消費が増えたのだ。米の消費が増えたのでスーパーはフリカケの販売を増やした。因果関係は逆である。
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