経済安全保障を実現しない経済安保法~必要なのは経産省の解体だ
エネルギー、資源、食料の輸入依存から脱し循環経済を実現する体制整備を
田中信一郎 千葉商科大学基盤教育機構准教授
経済社会の3大リスク物資
日本の経済社会における3大リスク物資は、昔も今も、エネルギー、資源、食料である。製品・半製品の輸入が増加し、過去に比べて割合は減少したが、現在でも全輸入品の3分の1をそれらが占めている。2018年では、鉱物性燃料(エネルギー)(23%)が最大の輸入品目で、食料品(9%)と原料品(6%)と合わせて、38%を占めている(通商白書2019)。
これらの輸入が止まれば、日本の経済社会はたちまち危機に瀕する。実際、ロシアのプーチン大統領によるウクライナ侵略に伴い、エネルギー(天然ガス・石炭等)や食料(小麦等)の国際取引が圧迫され、価格が上昇している。決して輸入が止まったわけではないが、それでもガソリン価格の抑制が政治課題の焦点に浮上している。これらのリスクの致命的な重要さが、改めて明らかになった。
経済安保法の最大の問題は、この3大リスク物資にほぼ対応していない点にある。それどころか、岸田内閣は当初、エネルギーリスクの長期的な低下に寄与する住宅の断熱義務化法(建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律の改正)について、準備が整っていたにもかかわらず、国会に提出しなかった。与野党と世論の求めに応じて国会提出に転じたものの、岸田内閣の経済安全保障観を根底から疑わせる出来事であった。
3大リスク物資については、海外への依存度を低下させることが、もっとも有効なリスク対策となる。それらの物資をできる限り使わずに同等の製品・サービスを生み出す、使われた製品・サービスから再び利用できる物資を取り出して使う、そのままでは使えない状態であっても別の状態に加工して使う、国産の物資に商業的に成り立つ範囲で最大限に置き換える。
言い換えれば、3大リスク物資の使用抑制・効率化(リデュース)、再使用(リユース)、再資源化(リサイクル)、国産化(地産地消)である。依存度を低下させていれば、何らかのリスクで輸入が止まったとしても、代わりの輸入先や物資を見つけるのもそれだけ容易となる。なぜならば、どのような物資であっても、莫大な量を短時間で代替すること自体が難しいからである。依存度を低下させておけば、それだけ代替方法の選択肢も拡大する。
食料についても、主食のコメという食糧の国内生産を確保しつつも、その生産基盤や栄養確保に必要な他の食料については、大きく輸入に依存してきた。食料生産においては、ガソリン・軽油で動くトラクター等の農機具・漁船等が不可欠であり、農業では化学製品である肥料・農薬も一般的に使われている。化学肥料等を用いない有機農業の面積は、0.2%しかない(食料・農業・農村白書2018)。また、野菜や果物、肉、その他の加工食品を大量に輸入している。
偶然にも、これら3大リスク物資について、2000年頃に関係する法律が成立し、依存度低下の機運が高まった。1999年に地球温暖化対策推進法が成立し、ほぼ全量を輸入に依存している化石エネルギーの使用抑制が求められた。同年、持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律も成立した。2000年には、循環型社会形成推進基本法が成立し、リデュース・リユース・リサイクルが資源使用の基本原則となった。
しかし、いずれも経済産業省(2000年までは通商産業省)の主導によって、効果的な制度・施策の導入が見送られた。
エネルギーでは、
・・・
ログインして読む
(残り:約4546文字/本文:約7036文字)