小此木潔(おこのぎ・きよし) ジャーナリスト、元上智大学教授
群馬県生まれ。1975年朝日新聞入社。経済部員、ニューヨーク支局員などを経て、論説委員、編集委員を務めた。2014~22年3月、上智大学教授(政策ジャーナリズム論)。著書に『財政構造改革』『消費税をどうするか』(いずれも岩波新書)、『デフレ論争のABC』(岩波ブックレット)など。監訳書に『危機と決断―バーナンキ回顧録』(角川書店)。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
財務相、経済団体トップも懸念表明、知恵集め「緩和」の転換を検討する時だ
日本経済にとって円安が素直に歓迎された局面はもう終わっているのに、金融の異次元緩和で実質的な円安誘導を続けている日銀は、通貨の番人としての責任を果たしているのか。「悪い円安」の指摘が出ているのを機に緩和政策からの出口を考え、円安にブレーキをかけながら国民や市場と対話しつつ軟着陸を目指すべきではないだろうか。いつまでも緩和一辺倒のアベノミクス路線を続けるのではなく、収束への議論がなされるべきだということを現実が示唆しているように見えるのだが。
急激な円安の直接のきっかけは、米連邦準備制度理事会(FRB)による金融引き締めにより、日米の金利差が拡大したため、外国為替市場で円が売り込まれたことだ。しかし責任の半分は日銀にある。黒田東彦総裁がなおも金融緩和に固執したり、円安が日本経済にプラスだと言い続けたりしていることが、市場での円売りを勢いづけているのだ。
こうした状況に、日銀と二人三脚のようなコンビを組んでいるはずの財務省からも不協和音が飛び出した。
鈴木俊一財務相が4月15日の閣議後の記者会見で、「円安が進んで輸入品等が高騰をしている。そうした原材料を価格に十分転嫁できないとか、買う方でも、賃金が伸びを大きく上回るような、それを補うような所に伸びていないという環境。そういうことについては、悪い円安ということが言えるのではないか」と述べたのである。
財務相は「為替の安定が重要で、特に急速な変動は望ましくない」と一般論も述べたが、この日は為替の現状に関して踏み込んだ表現を用いて「悪い円安」の現状を認めたところが経済関係者に注目された。
金融界には「円安に対する危機感の表れであるとともに、円安を助長している日本銀行の金融政策姿勢に対する不満の表れなのではないか」といった反応が出ている。筆者がテレビのニュース映像を見た限りでは、財務相はこのくだりをメモに頼らず淀みなく述べていたから、本音を率直に表現したのだろうと思う。
黒田総裁から見れば、為替市場への介入などは財務省に責任があり、「悪い円安」も日銀の責任ではないと主張したいところかもしれないが、金利差で円が売り込まれ、その金利差の要因の半分は日銀のマイナス金利政策によるのだから、円安について日銀は責任を免れないと考えるべきだ。
その点を財務相がズバリと言ってのけたという印象があり、筆者はこのニュース映像をテレビで見て、日銀も今のまま何もしない姿勢では済まないのではないかと思った。
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